メンタルだけではない稀勢の里の敗因 横綱戦と平幕相手で異なった踏み込み

荒井太郎

“負けない相撲”から進化

稀勢の里の左おっつけは3横綱との真っ向勝負でも通用する強力な武器だ 【写真は共同】

 精神面の弱さを指摘する声も少なくない。確かにそうかもしれないが、敗因はそれだけではないと見た。3日連続で横綱を撃破した一番はいずれも左足から踏み込んだ立ち合いだった。先場所までの稀勢の里の立ち合いは基本的に右足から踏み込んでいた。今場所も4日目の栃煌山戦を除けば、9日目までは右足からの踏み込みだ。左足から踏み込むことで持ち前の左おっつけがさらにパワーアップ。圧力が増したことで立ち合いから横綱陣をも圧倒することができた。

 9月場所は栃ノ心の“注文相撲”に敗れている。今場所もおそらく立ち合いの変化を警戒したのだろう。左足の踏み込みがやや甘かった分、十分に圧力をかけることができず、押し込まれて左が入らなかった。いずれにしても攻めがやや消極的ではあった。

 14勝で優勝した鶴竜に次ぐ12勝で場所を終えたが、千秋楽翌日に開かれた横綱審議委員会では、来年の1月場所で優勝しても横綱昇進には否定的な見解が多数だったという。“準優勝”とは言え、その差は2つ。今場所喫した3つの黒星のいずれもが平幕力士というのも何とも印象が悪い。

 年間最多勝の栄誉には浴したが協会の表彰制度はなく、綱取りの直接的なアドバンテージにもならない。それでも相撲ぶりに進化が垣間見えた場所ではなかったか。9月場所までの相撲は右上手が取れるまでじっくりとあわてずに攻める、いわゆる“負けない相撲”だったが、それでは3横綱には通用しない。悔しい敗戦を重ねてきて見出したのが、左足から踏み込んでの左おっつけではないだろうか。

「非常に成長できた1年だった」とこの1年を振り返った稀勢の里。新年は新たな武器を携えて再び悲願に挑む。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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