真央、佳菜子にも勝ち目はある 10代若手にはないベテランの味を

野口美恵

「3回転+3回転」の成否が得点差に

すでにGPファイナル進出を決めているメドベージェワは、「3回転+3回転」をしっかりと成功させている 【坂本清】

 ではベテラン勢が戦っていくためには何が必要なのか。これまでは、「若手はジャンプ力、ベテランは演技力」というのがセオリー。それぞれ得点源は異なるものの、最終スコアでは競り合うというのが通例だった。

 ソチ五輪でも、当時17歳のアデリナ・ソトニコワ(ロシア)が優勝し、23歳のキム・ヨナ(韓国)が銀、27歳のカロリーナ・コストナー(イタリア)が銅。ジャンプ力がピークの若手と、円熟味あるスケーティング力をもつベテランが争う、拮抗した試合展開となった。

 ところが今季の前半戦は様子が違う。単に「3回転+3回転」の成否ばかりが得点差になっているのだ。なぜならば今季の女子は、ジャンプ構成という意味では横一線。最高難度の技は「3回転+3回転」の連続ジャンプで、その本数も「ショートプログラムで1本、フリースケーティングで2本」というのが最高レベル。男子のように、4回転を何本も何種類も、という天井知らずの戦いではない。結局、似たようなジャンプ構成となり、その試合の調子だけで表彰台が入れ替わる状況だ。

 すでにGPファイナル進出が決まっているエフゲーニャ・メドベージェワ、エレーナ・ラジオノワ(共にロシア)、ケイトリン・オズモンド(カナダ)らは、「3回転+3回転」または同等レベルのジャンプを、「ショートで1本、フリーで2本」とも成功させた。

 実際の得点を見ると、多くの選手が連続ジャンプに入れる「3回転トウループ」の得点は「4.3点」で、2回転だと「1.3点」。つまりメダルの“合格ライン”はこの僅差の狭間にあり、そこで若手がしのぎを削っている。

若手に追い付こうとする必要はない

若手に追い付こうとする必要はない。今できる技の質を磨き、それを完璧にこなすことで勝機は見えてくる 【坂本清】

 それでは、浅田のように「3回転+3回転」を今季まだ取り入れていないベテランに勝ち目はあるのか。「3回転」と「2回転」の得点差を考えれば、若手とは技術点で約9点の内容差がある。これを「演技構成点」で詰め寄れるかどうか、がテーマだ。

 計算は複雑になるが、1項目10点満点の「演技構成点」でそれぞれ1点ずつ差をつければ、女子はショートとフリー合計で12点の差をつけられる。表彰台に乗っている若手の演技構成点は、7点台後半〜8点台中盤に集中していおり、ベテラン勢が9点台を出せば十分に詰められるのだ。

 ところが今季の浅田も村上も、演技構成点が伸びない。それはひとえに、ジャンプのミスや、スピン・ステップでの取りこぼしがあり、プログラム全体として表現の良さを醸し出せていないことに起因している。

 羽生結弦(ANA)やハビエル・フェルナンデス(スペイン)のコーチであるブライアン・オーサーは、彼らが300点超えした背景をこう語る。

「4回転ジャンプの本数や種類が得点源ではありません。ジャンプやスピンすべての出来栄え点(GOE)で『+3』に近い加点をもらうことが1つ。そして質の高い技術ばかりをそろえることで、プログラム全体の質が高まり、演技構成点の評価も9点〜10点という高い評価になるのです。結局は技の質にこだわって練習していくことです」

 この言葉は、ベテラン女子にとっても参考になるだろう。

 つまり浅田も村上も、まずはジャンプ、スピン、ステップすべてで取りこぼしのない質の高い技を見せることだ。「3回転+2回転」の連続ジャンプでも、加点がつけば見栄えがする技になる。そしてすべての技を高い質で披露した時にこそプログラムそのものの質が上がり、これまで蓄積してきたベテランの味わいを醸し出せるのだ。これこそが、若手には出せない、高い演技構成点につながっていく。

 若手の勢いに戸惑い、追い付こうとする必要はない。今できる技の質を磨き、完璧にこなしたその先に、高い演技構成点が待っている。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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