過去とは違う「井原・福岡」のJ2降格 スタイルを仕上げるために選んだ継続の道

中倉一志

ベースとなるはずの堅守が崩壊

シーズンを通して課題が解決できず、福岡は4度目のJ2降格となった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

「J1残留という目標は果たすことができなかったが、1年間、変わらぬ熱い応援をしていただいたファン、サポーター、支えて下さったみなさんのために、最後は勝って意地を見せたい」

 アビスパ福岡の井原正巳監督をはじめ、選手たちが異口同音に語って臨んだ2016年シーズンの最終戦。しかし、終わってみれば柏レイソルの前に、なす術もなく0−4で敗戦。福岡は最後まで戦う姿を見せられずに5年振りのJ1での戦いを終えた。「今シーズン通してのわれわれの課題というものが、またはっきり見えた試合だと思う」とは、最終戦を終えての井原監督の言葉。福岡のJ1でのチャレンジは1年で幕を閉じた。

 J2で培った堅守をベースに、鋭く攻守を切り替えて、縦に速い攻撃でJ1定着を図る。それが、今シーズンの福岡の目標だった。だが、ベースとなるはずの堅守が崩壊。今季のJ1では最多となる66失点を喫した。もちろん、J1の高い技術や、チャンスを確実にものにする決定力の高さに悩まされたことも事実だ。だが、それ以上に、試合運びの稚拙さと“アラートさ”に欠けたことが致命的だった。それがシーズンを通しての課題。そして、リーグ最終戦となった柏戦でも、これまでのリプレーを見ているかのような失点を繰り返した。

崩されていないのに隙を突かれる

人数をそろえ、陣形を整えても隙を突かれる。そんな失点が多かった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

「良いリズムで試合を始めながら、崩されてもいないのに失点した」とは、今シーズン、何度となく井原監督の口から出た言葉だ。

 相手の特長を綿密に分析し、自分たちの実力と照らし合わせて、3バックと4バックを併用する戦い方は、J2を駆け抜けた昨年来の「井原・福岡」の持ち味。ボールを支配される時間は増えたものの、大きく崩された印象は少なく、ブロックをセットした時は、決定機を作られることは多くなかった。押し込まれているように見えて、決して決定機を与えない。そんな戦い方こそ、昨シーズンの戦い方を彷彿(ほうふつ)とさせるものだった。

 その一方で、ここぞというところで必ず隙を見せてしまうのが今季の福岡だった。人数はそろっている。陣形も整っている。だが、どこかに「これくらいでいいだろう」という姿勢が見え隠れした。そして、ボールホルダーに対してのプレスが甘くなり、あるいはポジションの修正が少し遅れ、その隙を確実に突かれた。最終戦となった柏戦での1失点目は、まさに、その形から。まったく危なげない展開ながら、たった1本のパスで、センターバックの真ん中をやすやすと割られた。

 柏戦の2失点目、4失点目も、自分たちの“アラートさ”に欠いたプレーから喫したものだ。2失点目は伊東純也のポジショニングが巧みだったとは言え、最も警戒すべき選手の1人である伊東がペナルティーエリア内でフリーでボールを待つ姿を、誰ひとりとしてケアしていなかった。4失点目は、カウンターに出た柏をファウルで止めたシーンから生まれたものだが、素早くりスタートする柏に対し、福岡はプレーが止まったことに安心したのか、緩慢な動きで自陣に戻ってくるだけ。今シーズン、同じような形から何度も失点しているにもかかわらず、その反省は生かされていなかった。

 こうした“アラートさ”に欠ける傾向は、セットプレーでも随所に表れた。もちろん、J2とは違う精度の高さに悩まされたことも確かだが、それを差し引いても、あまりにも無防備だった。相手のやり方、得意な形、警戒すべき選手を整理しておきながら、時にマークすべき相手をフリーにし、時にマークがミスマッチになっていることに気付きながらマーカーを変えず、そして、こぼれたボールに対して不用意なプレーを繰り返し、相手にゴールを献上した。

優位な展開でも、相手にリズムを渡してしまう

 ゲーム運びの稚拙さも深刻な課題だった。自分たちのゲームプラン通りに試合を進めながらも、状況の変化に臨機応変に対応することができずにリズムを崩てしまう。ゴールを奪っても奪われても、その後どのように戦うのかを明確にできず、相手のリズムにのみこまれる。そして、勝負どころで“アラートさ”に欠く不用意なプレーで失点を繰り返した。

 1stステージ第2節の横浜F・マリノス戦(1−1)、先制点を奪われながら一時は逆転に成功した同13節の柏戦(2−3)、早々と2点をリードした同第16節の川崎フロンターレ戦(2−2)、1点をリードし、なおかつ相手が10人となった2ndステージ第1節の浦和レッズ戦(1−2)、ホームで戦う勢いを生かしきれなかった同10節のジュビロ磐田戦(2−3)、そして同15節のヴァンフォーレ甲府戦(1−2)は、その典型だ。いずれも優位な展開に持ち込みながら、いつの間にか相手にリズムを譲り渡して勝利を得ることができなかった。

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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