混戦の中、明暗分かれるトップ4の指揮官 スペインリーグ序盤 監督通信簿

北川紳也(フットメディア)

安定した評価を勝ち取るシメオネ

ここまでリーグ戦無敗をキープするアトレティコ・マドリー。指揮官であるシメオネの評価は高い 【Getty Images】

 今季のリーガ・エスパニョーラも第8節までを消化した。首位のアトレティコ・マドリーから6位アスレティック・ビルバオまでの勝ち点差は、わずかに3つ。上位6チームが3ポイント内に同居しているのは、2006−07シーズン以来、実に10年ぶりのことだという。

 そんな大混戦のリーガにおいて、もっとも安定した評価を勝ち取っているのは、アトレティコ・マドリーの監督として6年目のシーズンを戦うディエゴ・シメオネだ。今季リーガでは、開幕から2試合連続ドローと就任以来最悪のスタートを切ったが、ここまで無敗をキープ。現時点で首位に立ち、得失点差もリーグトップの「+18」を記録しているのだから、文句のつけどころがない。

 特筆すべきは、攻撃面で大きな進歩を遂げたことだろう。10月15日(現地時間)のグラナダ戦で7−1という大勝を収めた後、『アス』紙は「シメオネはようやく攻撃の仕方を学んだ」と書いた。やや皮肉を含んだ評論とはいえ、実際のところ、今季は十八番とされてきた堅守速攻だけでなく、ボールを保持しながらも効果的な攻撃を見せている。

 昨季までサイドを主戦場としていたコケを中盤センターに配置転換したことで、ボール回しのスムーズさが飛躍的にアップした。今季の公式戦ではここまで10試合を戦って、ボール支配率が50%を下回ったのは3試合だけ。うち2試合の相手は、バルセロナとバイエルン・ミュンヘンという“ポゼッション派”の筆頭格であるだけに、アトレティコ・マドリーは“ボールを持てるチーム”へ変貌を遂げたと言っても過言ではない。

「アトレティコ5.0 〜シメオネ体制で最もパーフェクトに近いチーム〜」

 そうシメオネの手腕をたたえたのは、『ムンド・デポルティーボ』紙である。このアルゼンチン人指揮官は「監督の賞味期限は3年」と言われるサッカー界において、ただ長くベンチに座っているだけでなく、絶えずチームを進化に導いてきた。先日には、クラブとの契約期間を18年6月末まで2シーズン短縮したことが大きな話題となったが、「約4年をかけてチームを作ってきた」と語る本人の言葉どおり、この先もストイックにチーム作りに励むのだろう。

新たな顔を見せ始めているエンリケ

“MSN”を筆頭にメンバー固定が目立った昨季の反省を踏まえて、エンリケは新たな顔を見せ始めている 【Getty Images】

 そんなシメオネと同年齢のルイス・エンリケも、今のところ、ポジティブな評価が与えられている1人だ。

 バルセロナの監督就任3年目となる今季について、一言で表すとしたら、「変化」になるだろうか。最も顕著なのは、3バックの積極採用だ。第4節のレガネス戦(5−1)で今季初めて3−4−3を採用すると、15日のデポルティーボ戦(4−0)も3バックで臨んだ。この決断に対しては、勝利という結果はもちろんのこと、戦術のバリエーションやメンバーのやり繰りという点で、特に同業者たちから高い評価を受けている。

「過密日程への対策になり(セルヒオ・)ブスケッツや(アンドレス・)イニエスタに休息を与えることもできる」と語ったのは、元バルサ指揮官のラドミール・アンティッチだ。また先月までグラナダを率いたパコ・ヘメスも、「慣れ親しんだシステムを使わないことは、選手たちにとって刺激になるし、集中力の維持にもいい」と好意的なコメントを残した。さらに、レアル・マドリーで監督などを務めたホルヘ・バルダーノは、「相手の“バルサ対策”に対応する有効な手段だ」と、エンリケの決断をたたえている。

 バルセロナは今季すでにリーグ戦で2敗を喫しており、けが人の続出やブスケッツの不振など、少なくない問題を抱えている。だが、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールによる南米3トップ“MSN”を筆頭にメンバー固定が目立った昨季の反省を踏まえて、エンリケが新たな顔を見せ始めているのは興味深い。

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著者プロフィール

1984年生まれ、徳島県生まれ。マニュアル制作会社に勤めた後、2011年夏からフットメディアに所属。J SPORTSのプレミアリーグ中継や『Daily Soccer News Foot!』などに関わり、ライター・翻訳をメインに活動する。学生時代にはバルセロナへ1年間留学。ルームメイトがアルゼンチン人だったこともあり、南米コミュニティーのなかでフットボールのイロハを学べたことが今の財産。

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