金本監督元年は若手台頭で明るい兆し 猛虎を“普通”にした超変革

山田隆道

中堅を若手扱いしない“普通の状態”

7月24日、連続フルイニング出場が667試合でストップした阪神・鳥谷敬 【写真は共同】

 そして迎えた交流戦開幕前夜、5月30日に開催された山虎サミット第2回。

 イベントに集まった阪神ファンの多くは、そんな若手の活躍を大いに喜んでいた。また、その若手の大半が25歳以下という点も喜びを増幅させた。近年の阪神では「30代に突入しても、まだ若手と呼ばれる問題」が根強く残っており、当イベントでもそれを話題にしていたのだが、金本監督が新井良太や今成亮太、上本博紀、大和といった(いずれもアラサー以上にもかかわらず、去年まではどこか若手扱いされていた)選手たちのことをはっきり「中堅」と呼んだことで一気に変革した。他球団なら中堅の選手が、阪神でもちゃんと中堅扱い。そんな“普通の状態”になったことが、妙にうれしかったものだ。

 ただし、それ以上にファンの関心が高かったのは、やはり鳥谷問題だった。金本監督が不振の鳥谷をフルイニングで起用し続けていたため、客席から批判や疑問の声が噴出。超変革という言葉が、これまでの阪神を覆い続けていたあしき伝統、すなわち不条理でアンタッチャブルな選手起用の“すべて”を打破するという意味なら、この鳥谷問題にこそメスを入れるべきなのではないか。空いたポジションに若手が出てくるのは普通の変革や自然な新陳代謝であって、「超」を付記するまでの変革ではないだろう。私自身も在阪マスコミが打ち出す明るい表看板の裏側で、そんな懸念を拭い去れなかった。

積年の荷物を降ろした爽快感

 果たして交流戦に突入して以降、阪神のチーム成績は徐々に低迷。いつのまにか借金生活が常となり、7月に入ると一時的に最下位にまで沈んだ。

 こうなってくると、いよいよ一部マスコミから金本阪神への批判が顕著に飛び出すようになった。若手の台頭だけでは勝てないとなるや、鳥谷はもちろん、同じく不振続きの藤浪晋太郎など、言わば悪い方向に超変革してしまった一部の主力に注目が集まった。さらに度重なる継投の失敗によって、指揮官の采配にも批判の矛先が向いた。

 そして、7月8日には藤浪の161球続投問題(詳細は割愛)が勃発。これが金本監督による懲罰采配だとして、賛否あったものの、否のほうがはるかに多い物議を呼んだ。
 このころの金本監督は、急降下するジェットコースターに乗っているような気分だったのではないか。あの超変革フィーバーはどこへやら、鳥谷と藤浪の問題を批判され、チーム成績も落ち込む一方。そんな中、7月24日に金本監督は大きな決断を下す。鳥谷をついにスタメンから外し、連続フルイニング出場記録をストップさせたのだ。ある意味、どんな若手の活躍よりも、これこそが超変革の象徴的な出来事だったように思う。

 鳥谷に代わってショートで起用されることが増えた高卒4年目の北條史也と、再起を目指すベテランの鳥谷。そんな二人の世代交代を懸けたポジション争いという、これまた普通のチーム状態になっただけなのだが、近年の阪神はその普通にこそ縁遠かっただけに、積年の荷物を降ろしたような爽快感があった。正直、鳥谷についても、これで余計な疑問を感じることなく、純粋に復活を願えるようになった。これでようやく、本当にようやく、真の意味での超変革。アンタッチャブルな聖域がなくなったのだ。

真っ当に批判、評価、期待する虎党たち

 だからなのか、8月8日に開催された山虎サミット第3回では、チームが低迷していたにもかかわらず、阪神ファンの多くが意外なほど前向きだった。先述した藤浪の161球問題をはじめ、金本采配への批判もあったものの、それは真っ当な論拠に根ざしたものであって、「金本辞めろ!」などといった感情的な罵声は一切なかった。一般的に阪神ファンはチーム状態が悪くなると、すぐに口汚くなるというイメージがあるかもしれないが、それはいわゆるステレオタイプであって、現実はそういう人ばかりではない。批判すべきは批判し、評価すべきは評価し、期待すべきは期待する。そんなファンも多いのだ。

 そもそも金本監督が誕生したとき、彼に指導者経験がないことは百も承知のうえで、それでも多くの阪神ファンが歓迎した、あるいは受け入れた。ならば采配への疑問はもちろん、時にはミスもあって当然で、そういう苦い経験を経て監督として少しずつ成長していく姿も、超変革の醍醐味だ。実際、今季の金本阪神からは高山、原口、北條、岩貞という4人の若手が頭角を現した。もちろん、反省点は数多くあるものの、一方で近年の大きな課題であった若手の育成については、明るい兆しが見えたと言える。

 思えば昨年のオフは監督交代のドタバタがあったため、次のシーズンに向けてのあらゆる準備に腰を据えて取り組めなかった。しかし、今年は秋季練習やコーチ人事の再考、補強戦略などの段階から、金本監督が中心になってじっくり着手できる。

 そういう意味では、来季こそ超変革の真価が問われることだろう。新しいタイガースに懸ける期待と、その実現のための我慢の日々は、まだまだ始まったばかりだ。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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