金本監督元年は若手台頭で明るい兆し 猛虎を“普通”にした超変革

山田隆道

就任1年目は4位に終わった阪神・金本知憲監督 【写真は共同】

 金本知憲監督率いる阪神の超変革元年が幕を閉じた。チーム状態はもちろん、マスコミやファンの反応という意味でも、本当に浮き沈みの激しいシーズンだった。

 その変遷をたどる上で図らずも貴重な資料となったのが、今季から大阪で定期開催するようになった『山虎サミット』というイベントだ。これは私と阪神ファン芸人・山田スタジアムさん、さらに阪神戦実況を担当するMBS毎日放送・金山泉アナウンサーの3人が出演し、お客様である多くの阪神ファンの皆さまと、阪神が抱える諸問題について語り合うといったトークライブで、初回の3月22日以降、これまで計3回開催。そこで議題に上がった事柄を振り返ると、超変革元年の紆余曲折が浮き彫りになってくる、というわけである。

希望に満ちていた開幕前

 まずは第1回となった3月22日。山虎サミットに集まった阪神ファンの多くは希望に満ちていた。このころの金本阪神はオープン戦首位という最高の状態で開幕直前を迎えており、在阪マスコミもその充実ぶりを派手に報じていたからだ。

 中でも目立っていたのは、オープン戦打率3割9分3厘と大活躍した3年目外野手・横田慎太郎だった。在阪マスコミは、この横田のことを糸井嘉男(オリックス)や柳田悠岐(福岡ソフトバンク)のような超人型の選手になれると絶賛。ルーキーの高山俊とともに、超変革の目玉として扱っていた。また、4年ぶりに阪神に復帰したかつての絶対的守護神・藤川球児も、このころは先発投手として計算されていた。オープン戦で3試合に先発して2勝0敗、防御率1.20だったのだから、期待値が高かったのもうなずける。さらに今季は不振を極めた主将の鳥谷敬についても、当時は良い意味で「変わった」という前向きな声が主流を占めていた。

 しかし、当イベントではこのころから不安要素も指摘されていた。たとえば「鳥谷敬のフルイニング出場記録」については、もし開幕して彼が好調だったとしても、将来の世代交代のことを考えると“フルイニング縛りに関して”は反対だ、というファンの声が多数を占めていた。シーズン中盤、マスコミを賑わせた鳥谷問題は、彼が不振に陥ったからこそ取り沙汰されたわけではなく、一部ではずっと前から問題視されていたのである。

分かりやすい超変革

 実際、鳥谷の不振は開幕直後から目についていた。もともと打撃に関してはスロースターターだけに、春先に打率が上がってこないのは例年通りなのだが、今季は信じられないような守備のミスがあまりに多かった。かつてゴールデングラブ賞に4度輝くなど名ショートとして鳴らした面影はなく、ファンの間では年齢(6月で35歳)による衰えはもちろん、どこか故障しているのではないかという疑惑まで持ち上がっていた。

 しかし、開幕当初の在阪マスコミはこの問題にあまり積極的ではなかった。それより高山と横田の若手1、2番コンビが機能していたこと、未来の大砲候補・江越大賀が試合をまたいで4打席連続ホームランを放ったこと、3年目左腕・岩貞祐太が快投を続けていたことなど、分かりやすい超変革、すなわち若手の活躍を大きく報じていたのだ。

 ご存知のとおり、横田の活躍が長くは続かず、5月頭に2軍降格して以降も、首尾良く新たな若手注目株が出現。その代表格は打てる捕手・原口文仁だった。この原口は、過去に育成降格の経験があるものの、そこからはい上がって1軍マスクを勝ち取ったというシンデレラストーリーが付加されていたため、余計に脚光を浴びた。チームも交流戦前までは勝率5割をキープしており、まだまだ超変革フィーバーの渦の中といった感じだった。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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