ルヴァン杯決勝で勝敗を分けた大きな差 切り札を使った浦和、ツキを逃したG大阪

北條聡

最初の交代がターニングポイントに

アデミウソンをベンチに下げ、ターゲットマンの長沢を投入。しかし、期待されたポストワークは不発 【写真:アフロスポーツ】

 実際、G大阪に運が味方していたとすれば、いったい、どこで潮目が変わったのか。G大阪のベンチが動いた66分が、最初のターニングポイントもしれない。

 殊勲の先制点を決めたアデミウソンをベンチに下げ、ターゲットマンの長沢駿を投入。後半に折り返して反撃に転じた浦和が攻めの手を強めた時間帯と重なる。浦和に押し込まれる時間が増え、後ろから長いボールを使って逆襲の足掛かりをつかみたいというベンチの思惑が、長沢の「高さ」と守備に回ったときの「追い込み」を必要とした格好か。

 だが、ここから事態が暗転する。

 スピアヘッドを裏へ走らせる「縦一発」の選択肢を失った上に、期待した長沢のポストワークも不発。さらに72分、右翼に藤本淳吾を投入すると、同サイドを狙った浦和の攻めが活発化する。そして3分後に左サイドからバイタルエリアへ潜り込んだ高木俊幸のシュートがGKを強襲し、CKを獲得。その直後、高木と交代でピッチに立った李忠成の値千金の同点ヘッドが生まれることになった。

 柏木の左足から放たれた鋭く曲がり落ちるボールは、ピッチ上の誰よりも高いニアサイドの巨人(長沢)をかいくぐるように、その背後で待つ李の頭へ吸い込まれていった。1−1。負けパターンにはまりかけていた浦和が、これで一気に息を吹き返した。

李が強調する「チーム一丸」での勝利

MVPの李は「全員が活躍してこそ結果を残せる」と総力戦による勝利を強調した 【宇都宮徹壱】

 プランが狂ったG大阪のベンチは延長目前の88分、3枚目のカードを切る。左翼へ回った長沢に代わる3人目のスピアヘッドとして、あの呉屋が登場してくるわけだ。それこそ「たられば」ではあるが、交代のカードを切る順番が違っていたら、その後の流れはどうなっていたか。ちなみに、長谷川監督はこうも話している。

「どちらが勝ってもおかしくないような試合だった。ただ、そこでもう一歩、突き放せる駒や力が、まだチームに欠けていたと思う。逆に浦和は交代で入ったばかりの李が決めている。あのあたりが勝負のアヤなのかなと」

 槙野が「持っている男」と評したMVPの李は、試合後のミックスゾーンで「うちはチーム一丸。全員が活躍してこそ結果を残せる」と、総力戦による勝利を強調した。両軍ベンチが戦術的な意図をもって手持ちのカードを切りはじめた66分を境にして、ゲームのシナリオは赤い歓喜のエンディングに向かって、少しずつ動き始めていたのかもしれない。

「自分の限られたキャリアを考えたら、タイトルを狙えるチャンスはそうあるわけではない。だから、どうしても勝ちたかった。神様に感謝したい」

 すでに30代へ突入している殊勲の李は、かみ締めるように語った。めぐってきたチャンスをわしづかみにする「握力」の強い男をジョーカーとして使える選手層の厚さ。そこが、経験値の少ないルーキーを最後の決め手と頼んだG大阪との小さな、いや、大きな差だったのだろう。

 なお、浦和にとって国内タイトルの獲得は06年J1リーグ制覇以来、10年ぶりだ。また、今季から大会名が変更されたルヴァンカップ(前身はナビスコカップ)の優勝は、実に13年ぶり2度目のことになる。さらに、監督就任から5年目のペトロヴィッチ体制下では初の栄冠となった。

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著者プロフィール

週刊サッカーマガジン元編集長。早大卒。J元年の93年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。以来、サッカー畑一筋。昨年10月末に退社し、現在はフリーランス。著書に『サカマガイズム』、名波浩氏との共著に『正しいバルサの目指し方』(以上、ベースボール・マガジン社)、二宮寿朗氏との共著に『勝つ準備』(実業之日本社)がある。

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