二冠王の筒香が追い続ける理想の打撃 「目標は常に高いところにあった」

菊地慶剛

「自分を信じてやってきた」

自身の成績だけではなく勝利を最優先にプレーし、チームを初のCSに導いた 【写真は共同】

──開幕前に40本塁打は想定していた?

 数字の想定はしていなかったんですけど、自分の中の達成感や満足感は正直あまりないです。数字は気にはなるんですけど興味はない……。ちょっと微妙なニュアンスなんですけど、僕の中では試合になったら自分の能力を使える分だけ使い、練習の場合はその能力を上げることだけにフォーカスするという、それだけです。なので自分の中でこれだけの数字というのはないですし、(タイトルは)もちろん取れるものは取れたらいいですけど、ただ僕の中では自分の能力をもっともっと上げるためにやっていく中で、後からついてくるというくらいの感覚ですね。

──本塁打を量産する中で昨年のドミニカ共和国でのウインターリーグ参戦が取り上げられることが多いが、それ以上にずっと長年取り組んできた努力が実を結び始めたのでは?

 これまでの6年間と、また今年の中でもあるんですけど、今気付けばそんな簡単なことだったんだということが、6年間でもありますし、今年の春先と今を比べても、そういったことがあるんです。でもそれが僕は近回りだと思うんですよね。普通に言えば遠回りしているという表現になるんでしょうけど、僕の中では今後のためにすごく近回りで、必要な道だったと思っています。去年ドミニカ共和国に行って得たものは大きいものがたくさんありますけど、それが今年にすべて繋がっているかといえば、僕はイエスではないです。

──ドミニカ共和国を含めこの6年間で徐々に自分の引き出しを増やしていったというのが正しい?

 そうですね。

──右脚のステップだけみても打撃投手の左右でも変えているし、試合でも変えている工夫が見られたが?

 僕の中ではベンチにいる時とネクストバッターズサークルまでの準備なので、打席に入ればこうやって打とうというのは考えないですね。それまでは準備の中でいろいろ考えてやりますね。

──現在CSを争う状況の中、メンタル面で成長につながる感覚はある?

 僕の中では(個人の)数字が気にならないかといえば気にはなりますし、プロとして数字に責任を持たないといけないと思います。ただそこに興味がないだけで、常にチームを勝たせることにフォーカスしています。なのでメンタルの部分で言うと、僕の中でどの試合も正直変わらないんですよね。(シーズン)途中の試合だろうが、今の大事なこの時期の試合だろうが、やることは打席に入って変わらないですし、毎日のモチベーションとか心の持ち方とか変わることがないので、それ(CS争い)がプレッシャーになったりとかはまったくないですね。

──何が自分のバッティングを見つめ直すきっかけになったのか?

 何人かの方と知り合いになり、アメリカにトレーニングに行く中でバッティングもやっていって、メジャーリーガーが当たり前に反対方向に打って、バッティング練習でもきっちり打っているのを見て、そういうところですごく変わりましたね。

──ある意味カルチャーショックだった?

 そうですね。今までやっていたこととは違ったので。でもそれを信じようとしてやりました。

──改めてゼロからバッティングを作り上げるのは決して楽な作業ではなかったと思うが?

 目標は常に高いところにあったので、途中いろいろな遠回りもしましたし、いろいろなことがありましたけど、自分を信じてやってきて良かったなと思います。

現状には納得も満足もしていない

 どうだろうか? 昨年末ドミニカ共和国でわずか1試合に出場しただけで、対戦経験の乏しいメジャースタイルの投手に対応するため右脚のステップを修正し、すぐさま結果を出した筒香を目撃した時、その打撃技術の高さに舌を巻いた。日本の一部メディアはこれを“打撃フォーム改造”と表現しているが、そんな大げさなものではなく、もともと筒香が作り上げてきた土台にほんのちょっと修正を加えただけだったのだ。

 本人から話を聞くと、彼の打撃理論や目指している完成形はこれまで取材した日本人メジャー選手と比較してもまさるとも劣らないもので、24歳とは思えぬ意識の高さに驚かされもした。それは自分ばかりでなく受け入れたドミニカ共和国のチーム関係者も同様だった。元々筒香の希望に合わせて期間限定で受け入れる予定だったが、筒香のバッティングにほれ込んだチームはすぐさま期間延長を申し込んだほどだった。

 今回の取材でも何度も「僕の中では」という表現を使っているが、彼は10代の頃から自分自身と向き合い、高いレベルから自分のバッティングを見つめ続けてきたのだ。

 改めて言うが、筒香は突然バッティングについて目覚めたわけではない。彼の姿勢は昔も今も変わっていない。自分の理想とするバッティングを追い求める作業を繰り返す中で、自然と数字がついてくるようになったというのが実際のところだ。もし他のメディア同様に「覚醒」とう表現を使うとしたら、それは今年ではなくメジャー打者のバッティングを見て驚かされた時こそが、筒香にとって打者として“目覚め”だったはずだ。

 筒香は現状に納得も満足もしていないし、このまま歩みを進めれば進めるだけ、われわれが待ち焦がれたメジャーでも通用する一流の和製長距離砲の誕生が実現に近づくことを意味する。

 来年開催されるWBCに筒香が侍ジャパンに選出されるのは間違いないだろう。その時にメジャーで活躍する投手相手にどんなバッティングを披露してくれるのか? さらにその先どんな成長した姿を見せてくれるのだろうか? 今から彼のバッティングが楽しみで仕方ない。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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