世界を旅しタフになった“00ジャパン” 日本サッカーの明日のために、ここは勝つ

川端暁彦

日本にとって厄介な相手UAE

森山監督(写真)も「1失点は覚悟しなければいけない」とUAEを警戒した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 アジアの強国UAEとの“世界切符決定戦”は、チームが培ってきたものすべてが問われる戦いとなるだろう。それは日本サッカー界が成長打ち止めとも言えるジレンマに苦しむ中で、新たに見いだしてきた一つの可能性を試す戦いでもある。

 UAEのスタイルはまさに「余計なことをしてこない中東のチーム」(森山監督)のもの。狙いは至ってシンプルで、引いて守ってのカウンター。16歳でこれほど割り切れるかというほどに割り切って、彼らは彼らなりの「自分たちのサッカー」を貫徹している。ストロングポイントは明確かつ強烈。14番のFWアハマド・ファウジは“超”を付けたくなる俊足で、とにかく速い。「よーいドン!」での競争となれば厳しいので、そこに持ち込ませないことが肝心だろう。右サイドの11番、モハメド・アリ・カミスもやっぱり速い。サイドからの縦突破は要注意だ。「UAEは足が速い」というMF福岡慎平(京都サンガF.C.U−18)の見立ては身もふたもない表現ながら、非常に的確だ。

 その中で10番を背負う左サイドのアリ・サレハ・オマルのように、ダイナミックな展開を含めて変化を付けてくるタレントもいる。守備陣は高さがあって、「守りの文化みたいなものがある。攻め込まれていても気にしない」(森山監督)という割り切ってしまえる心理面の強さもある。実際、死闘になったグループステージ最終戦のサウジアラビア戦は、まさに粘り勝ちと言うべき内容だった。日本のA代表もこの「守りの文化」には手を焼いたが、U−16も同じこと。チームとしてUAEより強いチームは今大会ほかにいくつもありそうだが、日本にとって厄介な相手という意味では、彼らが一番かもしれない。カウンターのスペシャリティーを思えば「1失点は覚悟しなければいけない」(森山監督)のだろうし、「先に失点するようなゲーム展開もある」(同監督)だろう。

爆発力と耐久力の両立が可能なチーム

 とはいえ、である。

「どうせ1点は取ってくれる」というGK谷晃生(ガンバ大阪ユース)の言葉を借りるまでもなく、得点力に関して不安のあるチームではまったくない。チーム結成以来、アジア勢相手に無得点に終わった試合は一度もない。右MFで先発濃厚な久保建英(FC東京U−18)の存在がクローズアップされているが、別に彼だけのチームでもない。宮代も中村も、棚橋尭士(横浜F・マリノスユース)も、世界を旅する中で結果を残してきた選手たちだ。ギリギリの戦いの中でも、ゴールネットを揺らしてきた。

 本当によく頑張るチームになってきたが、闇雲に頑張るだけのチームでもない。司令塔格のMF平川怜(FC東京U−18)の技巧と沈着さ、後方を仕切る瀬古歩夢(セレッソ大阪U−18)と菅原由勢(名古屋グランパスU−18)のサッカー理解度の高さは指揮官も全幅の信頼を置く。カウンターの怖いチームが相手ではあるが、カウンターにビビって攻め切れないようなチームでもあるまい。

「消極的な戦いで負ける気はない」と森山監督も言い切った。始まるのは「かつての黄金世代のような○○世代と言われるようなチームになってほしい」という指揮官の願いをかけての一戦。目指してきたのは選手たちの野性を大切にしながら、同時に理性も発揮できるチームであること。爆発力と耐久力の両立。「自分たちのサッカー」を持ちながら、それができないときもなお強いチームであることを志してきた。

 立ちふさがるUAEの壁は薄くないが、貫けないほどでもない。負ければ終わりのプレッシャーがないはずもないが、跳ね返せないほど弱くもない。日本サッカーの明日を担うニューミレニアム世代が世界への扉をこじ開け、飛躍への第一歩を刻む。来年、そしてさらに先の未来で、もっと多くの実りある旅を世界中で重ねるために、ここは勝つ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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