大迫傑「今はトラックで戦いたい」 長距離界の星が描く“勝利の方程式”とは
初めての五輪で確かな成長を見せた大迫傑。色紙にしたためた言葉は「常に前進」 【平野貴也】
「惨敗と書かれるのは、別に構わないです。事実ですから」と落ち着いた表情で話す大迫の言葉は、未来にかける覚悟とも確信とも受け取れる雰囲気をまとっていた。かねて2020年東京五輪・男子マラソン金メダルを目標に掲げてきた大迫は、リオでのレース内容と結果をどのように受け止めたのか。リオ五輪の選手村で話を聞いた。
リオでステップアップを確認
あまり特別感はなかったです。周りの方がすごく注目してくださって、友達とか親戚からはすごく「頑張れ、頑張れ」と言っていただいたんですけど、自分の中では、大きな大会の一つという捉え方でしたね。もちろん自分のキャリアにとっては大きな大会ですし、大会の規模としては違うんですけど、出すべき僕の力や、やるべきことは全然変わらないので、僕からの見え方としては、他の大会と大きくは変わらなかったです。
――今回は、どちらかといえば1万メートルに照準を合わせてきたとのことでした。1万メートルでの入賞、5000メートルでの予選突破という今大会の目標は達成できなかったわけですが、結果と内容をどのように捉えていますか?
どちらかと言えば(単純なスピードだけでなく、スタミナも必要になる)1万の方が入賞やメダルを狙いやすいから、ある程度(長い)距離を踏む練習をしてきました。手ごたえに関しては、1万はレースの展開次第というところもありましたし、5000に関しては(日程的に)先に行う1万の走りがイメージや体調の面で関わってくるところもあって、そのかみ合わせが少しうまくいかなかった部分もあったと思っています。もし、1万で入賞できていれば気持ち的にも余裕が出て、5000にもっとリラックスして臨めたでしょうし、また新しくアドレナリンも出て……というところもあったと思います。両種目とも非常に残念な結果でしたけど、トータルで考えると一昨年や昨年に比べてかなり大きく成長している部分が見えているので、ステップアップを確認できた大会の一つになりました。メダルを取るという結果には、急には絶対に届かないと思うんですけど、その過程の一つとしては間違いなく進んでいるかなと思っています。ただ、1万で入賞できなかったので、まだまだ力が及ばないところではあったと思います。
――大迫選手は、2年前に実業団を辞めて米国へ拠点を移すという大きな決断をしました。その成果が問われる部分もあったレースだったと思います。ご自身でもレース後には「今大会で大きく変われれば理想的だった」と語っていましたよね?
そうですね。ここで結果が出るに越したことはないですが、まだ(米国に拠点を移して)2年くらいです。他の種目も同じだと思いますけど、世界トップレベルとの差を縮めるというのは、やはり時間がかかることですし、地道にやっていかなければいけないことなので、まだまだこれからかなと思います。
「環境を変えれば強くなるという話ではない」
ファラー(写真)ら世界屈指のランナーがチームメートであることのメリットを大迫自身も感じている 【Getty Images】
オレゴンでは、ピート・ジュリアンというアシスタントコーチがメーンになって教えてくれています。米国に行く前よりも力が付いていることは僕自身が感じていますし、コーチと話していても同じ印象を受けます。でも、コーチから言われることも「常にトレーニングを続けること、ハードなトレーニングを継続していくことが大事」という話くらいで、何かピンポイントでやっているということは、ないです。
――練習内容などで日本とはどのような違いがありますか? 環境を変えたことで何を得られていると感じていますか?
練習内容は、そんなに違わないと思います。別に環境を変えれば強くなるという話ではないので、米国に行けば強くなるとか、ケニアに行けば速くなるとか、そういうイメージを持たれているとしたら、大きな間違いだと思います。一番大事なのは、その練習環境で何を目的にして練習をするのかということなので。僕の場合は、スピードを高めたいという狙いがあって、一番良い練習相手がいるなと思って、今の環境を選びました。スピードトレーニングは、日本に比べると多いかなと思いますが、これと言った特別なメニューがあるわけではありません。
練習相手は、国内にはいないレベルですから、もちろん強いです。今、すべての練習において彼らとパーフェクトに(互角に)やれと言われたら無理な話ですけど、自分のやっていることの延長線上に彼らがいるんだということを実際に見られただけでも、僕自身にとっては大きなアドバンテージかなと思っています。今まで世界大会の出場経験が少なかったから、強く感じている部分もありますけど、この数年でそういう経験もさせてもらって、今の環境で非常に慣れたという感じはあります。
――世界トップレベルの強豪が集っていても、気後れすることがなくなったというような効果もありますか?
そうですね。でも、それは自分の力次第だとも思います。別にトップレベルの選手と走る機会が少なかったとしても、例えば5000を13分フラットで走るとか、1万を27分30秒くらいで走る力があれば、僕が日本で練習していたとしても気後れはしないと思いますから。だから、僕の感覚が変わってきている理由が、米国の練習環境にあるのか、僕自身に力が付いてきているからなのかは、ちょっと分からないです。
――同じチームにイギリス代表のモハメド・ファラー選手(ロンドン、リオデジャネイロの両五輪で1万メートルと5000メートルを連覇)もいますが、彼のような選手と常に一緒に走っているのであれば、とても刺激的なのでは?
彼はエチオピアに合宿に行くなど、個人で練習をすることが比較的多いので、一緒にやったのは秋口とか冬に入る頃でしたが、たまに機会はありますね。でも、出場するレースも選手それぞれで違うので、ある程度同じメニューなら一緒にやるし、そうでなければ別々で個々の練習をするという感じです。でも、彼らと走ること自体を特別なことだとは思っていませんよ。自分でそうなるように選んだので、当たり前のことですから。特別な感情は抱いていません。