大迫傑「今はトラックで戦いたい」 長距離界の星が描く“勝利の方程式”とは

平野貴也

「ダメだ」と言われるうちが華

6月の日本選手権では5000メートルと1万メートルの2冠を達成。力的に頭ひとつ抜けた存在であることを示した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――米国移転の理由がスピードを高めることということでしたが、その手ごたえは?

 スピードはもちろん上がっているとは思いますけど、こういうレベルの高い試合は特に、(駆け引きの影響もあり)出せたり、出せなかったり、まだムラがあるのが正直なところですかね。ペースの変化に対応する力は付いてきたと思うので、その辺は、2013年にモスクワで行われた世界選手権に比べると、ずっと進化していると思います。ただ、その中でスピードを生かすまでの力はまだないかなというところだと思いますね。

――実際に力を付けていても、結果だけで見られてしまう悔しさなどはありますか?

 理解していますよ。他の人が僕のことを知ることなんてできないですし、知ろうと思ってくれている人でも、毎日練習を見ているコーチでもなければ、いつも一緒にいる家族でもないですから、結果で判断することしかできない。それは、仕方ないことだと思います。でも、僕自身は、そこ(周囲の評価)に目を向けていなくて、どちらかと言うと、自分の物差しで常に測って、何が足りないかということを常に近くにいるコーチに相談しています。だから、まったく気にしていないという感じですかね。でも「ダメだ、ダメだ」と言ってもらっているうちが、華だと思います。

――五輪前の日本選手権は、結果でハッキリと成長を示せた大会でしたよね。これまで勝ち切れなかった大会で2種目を制覇しました。結果が出ることで変われるきっかけをつかむ手ごたえはありましたか?

 日本選手権は、本当に力的にもだいぶ抜けていたと思います。特に大きくは変わっていないですけど、自分が一歩一歩進んでいく中で、一つのステップアップというか、自分の中のストーリーとして「始まったな」という感じですかね。

――たとえば、今後、国際大会など大きな大会で入賞やメダルといった結果が出たときに、同じように自信を付けて力が上がることがあるのではと期待しています。

 僕に限らず、誰にでも起き得ることですよね。中学生でも高校生でも、秋口の記録会で好タイムが出て自信を付けた選手が、試合の場である駅伝で良い走りをして、その先もどんどん強くなっていくというケースがあります。同じように、世界大会でも自分の良い感覚を一度つかんでしまえば、あとはそれをいかに生かすかだと思います。今はまず、そういう(大きな成長の)チャンスをつかめるようにトレーニングをしていきたいと思っています。

マラソンのためのトラックではない

当分はトラックに専念する予定。マラソンのためではなく、トラックで勝つために研さんを積むつもりだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――レース後には、来年はトラックでもう一度勝負することと、将来的にはマラソンへの挑戦も見据えているという話をされていました。どのようなプランを描いていますか?

 とりあえず、順調にトレーニングを積めれば、来年はもっとレベルアップできると思っています。来年の世界選手権、特に1万メートルで入賞を狙って、しっかりと勝負ができるように頑張りたいと思っています。マラソンに関しては、日本の選手なら誰でも挑戦したいという意志は、多分あると思います。ただ、先のプランがどうなるかは分からないというのが、正直なところです。

――マラソンに挑戦するにしても、トラックでスピード勝負ができなければ太刀打ちできないという考え方も一般的に広まってきていますが、そういう考え方を持っていますか?

 そうですね。トラックで勝負できないのにマラソンで勝負をできるわけがないと思います。マラソンでも、1万メートルを26分台で走るようなケニアやエチオピアなどアフリカ系の選手がたくさんいます。そういう選手たちが次々に出てくるときに(スピード勝負で)何もできないようでは、また(対応に)時間がかかってしまうかなと思います。マラソンをやるにしても、トラックでちゃんと戦うことを視野に入れて準備した方が良いと思います。もちろん違う考えの方もいると思いますし、それぞれに確信できる自分の能力があるんじゃないかなと思いますけど、僕の価値観で言うと、やっぱり1万メートルで勝負できないと難しいのではないかというところはありますね。

――マラソンに挑戦するためのハードルのようなものを、1万メートルでクリアしたいと考えているのでしょうか?

 いや、今はトラックを重視しているというだけで、マラソンのためにという考え方はしていません。僕が一番言いたいことは、「とりあえず、トラックで戦いますよ」ということです。「マラソンのために」という表現は、ちょっと言い訳がましく聞こえますし、僕は5000も1万も真剣に取り組んでいます。目の前の種目のために言い訳はしたくないので、結果的にそういう(マラソンへのステップアップになる)ものだとしても、今は、トラックで自分が勝負したいと思っているので、「マラソンのための」という思い自体が、僕の中にはありません。そこは、強調しておきたいです。

――長距離で日本勢がなかなか好成績を望めない状況が続く中、大迫選手は、現状を打破してほしいという期待を受けている選手だと思います。レース後の話で〈日本が長距離を苦手としている〉という意識を持つのはそもそもおかしいので、すべては個人の課題として捉えていると話していましたよね。日本のトップランナーとしてのプライドはありますか?

「日本の長距離部門」と言われても、実際は個々にトレーニングをしている選手の集団なので、特に一人が責任を感じる必要はないかなと思っています。僕は、僕が目指すものをちゃんとやっていれば問題ないというか。日本選手権を勝った選手だからとか、米国に行っている選手だからとか、そういうプライドのようなものは、あまりないです。日本人選手であるとか、日本選手団の一員だとか、そういうことの前に、一人の競技者というか僕自身なので。それぞれの国旗をつける前に、それぞれの選手という意識が強いので、自分自身のプライドは持っていますが、日本人選手としての……というのは、あまりないですね。基本的に、他人がどう思うかではなくて、自分が納得できる結果が出たらいいなと考えています。

――最後に、今後に向けた抱負を含めて、メッセージをお願いします。

 来年やその次の世界選手権(2017年ロンドン、2019年ドーハ)といった辺りでまずはちゃんと結果を出したいと思っています。2020年の東京五輪は、自分の競技キャリアの中で一番大きな大会になるので、そこで結果が出るように、一歩一歩ステップアップしていけたらなと思っています。

   *   *   *

 インタビューを通して、選手自身がしっかりとした評価軸を持って、将来へ進んでいることがハッキリと伝わってきた。周囲の評価を気にせず、目の前を疎かにせず、立ち向かうべき課題に対してストイックに取り組む。その中で細部に気を使うタイプであることは、言葉や表現方法を選ぶ際の表情に表れていた。

 2020年東京五輪に向けたマラソン転向について尋ねたとき、持論を展開しながらも、目の前のトラック勝負に対するこだわりを強調する姿は、印象的だった。まず、世界選手権で結果を出してみせる。話はそれからだと言わんばかりの表情が頼もしかった。高速化が進む長距離界に新たな試みで挑む大迫の今後が楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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