“空振り”に終わった五輪ボクシング 課題多き日本が東京で挽回するには?

善理俊哉

プロ参戦はローリスク・ローリターンだった

今回最も好成績だったのはウズベキスタン。WSBへの本格参戦などさまざまな投資が実を結んだ 【AIBA(国際ボクシング協会)】

 一般から求められる抜本的な改革はプロとの連携だろう。野球の成功例からボクシングでもプロ世界王者たちで「ドリームチーム」をつくれば、金メダルを狙えると思われており、リオ五輪直前にプロボクサーの出場が開放されると、その声は一層高まった。

 表向きは距離を置いているこの2つのボクシング界だが、実際の関係は大きくは離れておらず、昔から、学校とジムの単位では熱心にスパーリングが行われてきた。この交流の結果、分厚いグローブと少ないラウンドではプロボクサーはその長所をほとんど出せないとも認識されており、日本の世界王者たちがメダリスト候補になるには、国際舞台での経験を積む以前に、プロボクシング仕様の癖を多く削ぎ落とさなければならなくなる。

 また距離を縮めた場合、片方の組織がもう片方の組織を飲み込んで崩壊直前に追い込むリスクがあるのは、成績不振の米国やメキシコの五輪ボクシング界を見ても明らかだ(今回は両国ともメダルを獲得したが……)。世界的にもプロボクシング市場の大成した国が五輪ボクシング強豪国であることはない。

 マスコミの立場として、筆者はプロボクサー参戦には話題性の利点を感じるが、責任まで問われれば、連携は「ハイリスク・ローリターンの時期尚早」というのが妥当な判断である。ただ、見逃せなかったのがリオ五輪の最終予選だ。これは当初、APBとWSBの参加選手のみを対象に行うはずだったが、土壇場で本家プロボクサーの出場も許された。

 元世界王者2人を含めた名のある世界ランカー3人が予選通過を決めたが、本戦では、ルール適応力に大きな欠陥を露呈している。この結果からも、この予選が“おいしいもの”だったのは明らかだ。私見は現時点でプロボクサーの動員は、ハイリスク・ローリターンからローリスク・ローリターンに変わった。これがローリスク・ハイリターン、せめてハイリスク・ハイリターンだと感じられた場合は、日本も見直す価値があるかもしれない。

トップ3ぐらいの選手が強化できる環境に

日本で井岡一翔とも戦った前IBF世界ライトフライ級王者アムナット・ルエンロエン(タイ/左)は2回戦敗退 【AIBA(国際ボクシング協会)】

 リオ五輪の予選に出場した選手のうち、男子ライトウェルター級の川内将嗣と男子ウェルター級の佐藤龍士(ともに自衛隊体育学校)、女子ライト級の釘宮智子(奈良県連盟)は引退を表明。男子フライ級の田中亮明(中京高校・教員)はひとまず進退を考える期間に入った。女子ライト級の箕輪綾子(フローリスト蘭)はプロに転向している。

 現時点では、東京五輪は絶望的だが、北京五輪直後、つまり最高成績だったロンドン五輪の4年前もまた絶望的に感じられた。五輪直後というのは往々にして不毛状態であるが、以前と異なるのは日本が出場ではなく、メダル獲得を意識できていることだ。ここでは1番手の強化はもちろん、国際舞台を経験できずにいる2、3番手の選手も、いつかの台頭を意識できるような結果主義社会が、勝負の世界における理想郷なのかもしれない。

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著者プロフィール

1981年埼玉県生まれ。中央大学在学中からライター活動始め、 ボクシングを中心に格闘技全般、五輪スポーツのほかに、海外渡航を生かした外国文化などを主に執筆。井上尚弥と父・真吾氏の自伝『真っすぐに生きる。』(扶桑社)を企画・構成。過去の連載には『GONG格闘技』(イースト・プレス社)での『村田諒太、黄金の問題児』などがある

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