錦織圭の作戦を上回った巧者マリー リオ五輪準決勝のポイントを解説

大塚一樹

3位決定戦へ「悲観することはない」

スライスを多用するテニスに戦略変更した錦織だったが、マリーの切り返しが上回っていたと森井氏は解説する 【Getty Images】

――勝敗のポイントを分けたプレーは?

 第1セット、バックハンドのラリーで優位に立てなかった錦織選手は、スライスを多用するテニスに戦略を変更しました。マリー選手は前日に対戦したスティーブ・ジョンソン選手(米国)のバックハンドのスライスに苦しんでいましたから、その辺の情報も頭に入っていたのかもしれません。それ自体は問題ありませんし、良い作戦だったのですが、マリー選手がこのスライスを素晴らしいバックハンドで切り返してきました。錦織選手の作戦を上回るプレーをした、マリー選手が一枚上手でした。自分の形を作りきれなかった錦織選手は、第4ゲームで早くもブレークを許してしまうことになります。

――マリー選手のプレーが錦織選手を上回るほど良かったということですね。

 マリー選手は試合前に立てたプラン通りに試合を進められたのではないでしょうか。ミスも少なく、試合中もプレーに余裕が感じられました。ファーストサービスをうまくポイントにつなげて、リターンゲームに集中できたのが大きな勝因でしょう。バックハンド同士の打ち合いで錦織選手が押されることは滅多にありません。いつもならラリーで自分のペースを作る錦織選手ですが、今日のマリー選手にはそれが通じませんでした。バックハンド同士の打ち合いで攻めに出た錦織選手が、マリー選手が放つ強烈なクロスに押し返される場面が何度か見られました。ストロークで優位に立ちたい錦織選手に対し、それを許さなかったマリー選手はさすがでした。

――錦織選手の調子はどうだったのでしょう?

 結果的にストレート負けを喫したとはいえ、ポイントも取れるところは取っていましたし、調子自体は悪くありません。ここまでの勝ち上がりを見ても、まだメダルの可能性が残っている3位決定戦に向けて、決して悲観することはないと思います。フォアハンドの強烈なクロスでリターン巧者のマリー選手からポイントを挙げていますし、ショットフィーリングは上々。この試合で4試合目ですが、試合を重ねるごとに会場のコートサーフェイスにも慣れてきています。3セットマッチで、しかも雨で中1日空きましたし、体力面の問題もないでしょう。

改善すべきはファーストサービスの確率

――五輪ということで錦織選手に特別な精神的なプレッシャーはあるのでしょうか?

 プレーを見る限り「五輪だから」というプレッシャーはそんなにないように見えます。もちろんメダルを取りたいという気持ちはあるでしょうが、この準決勝に関して言えば、いつものように目の前の相手、今日の場合ならマリー選手に勝ちたいという気持ちでプレーしていると思います。

――錦織選手は前回のロンドン五輪ではベスト8。今大会はそれを上回るベスト4入りとステップアップしました。錦織選手の成長は感じられますか?

 ロンドンでは第15シードだった錦織選手も今大会は第4シード。ATPランキングで1桁、しかも5位以内を常時キープしている現在(編集注:8月8日現在は7位)は、4年前とはまったく違うと思います。今大会での下位の選手との対戦を見れば分かりますが、戦い方が落ち着いています。貫禄さえ感じますよね。上位の選手、ビッグ4(ノバク・ジョコビッチ、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、マリー)に対して、たまたま勝つとか、奇跡的に勝つのではなく、勝つべくして勝つことができるレベルに来ています。4年間の成長ぶりを反映したベスト4進出と言っていいのではないでしょうか。

――決勝進出はなりませんでしたが、日本人として96年ぶりのメダルをかけた3位決定戦が残っています。勝算はありますか? また、どのような試合をすれば勝利に近づくことができるでしょう?

 改善すべきはやはりサービスということになります。ファーストサービスの確率を上げ、相手に主導権を渡すことなくサービスゲームをキープすること。キープさえできれば、錦織選手のストローク力でブレークのチャンスは必ずやってきます。サービスが安定すれば、プレーの組み立て、ゲーム運びも楽になるはず。ラリーが始まってしまえば、相手が誰であっても錦織選手の持ち味が十分に生かせる試合展開になるはずです。

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著者プロフィール

スポーツライター。育成年代から欧州サッカーまで幅広く取材活動を行う。またサッカーに限らず、多種多様な分野の執筆、企画、編集にも携わっており、編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。

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