混沌とするアルゼンチンフットボール界 監督人事の迷走で露呈した協会の危機
シメオネ、サンパオリの招聘に失敗
しかし、サンパオリの招聘(しょうへい)には大きな障害があった。セビージャとの契約解除に必要な違約金700万ユーロ(約7億9000万円)である。それは協会の金庫が底を尽きている現状では到底支払える額ではなかった。
そこでペレスはセビージャとの契約が切れるまで、代表監督と兼業することも提案したのだが、それも無理だと分かると代表スポンサーのアパレル企業に出向き、違約金の工面まで相談した。だが、国内リーグで2部以下に所属する多くの中小クラブが資金難から存続の危機に瀕している現状が、しかも国内を見渡せば優秀かつ現在無職の指導者がたくさんいるという中で、それほど多額の出費を正当化することはまず不可能だった。
最悪の危機に瀕している現状
AFAはサンパオリ就任までの“つなぎ役”を用意することまで考えていたというが…… 【Getty Images】
彼にとってセビージャは56歳にして初めて訪れたヨーロッパ進出のチャンスである。しかもクラブは彼の要求に応え、同郷の優秀な選手(マティアス・クラネビッテル、ルシアーノ・ビエット、ホアキン・コレア、フランコ・バスケス)、ブラジル人MFパウロ・エンリケ・ガンソらを多数補強した。リーガ・エスパニョーラの開幕に先駆け、8月9日にはヨーロッパリーグ3連覇中の王者として臨むレアル・マドリーとのUEFAスーパーカップ、同14日と17日にはバルセロナとのスーペルコパ・デ・エスパーニャといったビッグゲームも迫っている。
そんな状況下、AFAではサンパオリの就任が可能になるまでの“つなぎ役”を用意することまで検討されたという。それは1998−99シーズンの開幕後にエスパニョルに違約金を支払い、マルセロ・ビエルサを引き抜いたことを彷彿(ほうふつ)とさせるアイデアながら、当時と今ではAFAが置かれている政治的、財政的な状況に加え、監督が契約しているクラブの事情まで大きく違っていた。
こうした監督人事の迷走ぶりひとつとっても、史上最悪の危機に瀕するアルゼンチンフットボール界の混沌(こんとん)とした状況が痛いほど伝わってくる。残念ながら、これではメッシに愛想を尽かされるのも仕方ないと言わざるを得ない。
(翻訳:工藤拓)