「メダルは目標、ゴールではない」 サッカー五輪代表監督のチーム作り(2)

川端暁彦

スタッフ全員でやっているチーム

スタッフのまとまりの良さが特徴でもある。「全員でやっているチーム」と手倉森監督 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――スタッフのまとまりがすごいとは取材していても感じます。

 俺もちょっとないくらいのまとまりの良さだと思っています。ベガルタ仙台でも毎年コーチ陣が入れ替わりながらやっていたんですけれど、その年その年、それぞれ良いスタッフだなと思ってやってきました。でもこの五輪代表のスタッフは、完全にイメージ通りのグループになったなという気がしています。

 クラブで年上のスタッフを置いたことはなかったのですけれど、早川さん(早川直樹コンディショニングコーチ)は俺にとって特別な存在ですし、(佐藤)洋平(GKコーチ)はクラブでずっとやってきて、選手時代から性格もよく知っている。あと秋葉(忠宏アシスタントコーチ)は俺のところに勉強しにきてくれたのが縁でした。まあ、秋葉もポジティブですね(笑)。

――間違いないですよね。

「このグループでやりたい!」と思っていました。このグループで五輪に行きたいというね。その通りにみんなが集まってきてくれました。秋葉は(ザスパクサツ)群馬の監督を離れるのを待たなければいけなかったですけれど、(退任が)発表になった次の日にもう秋葉に電話していましたから。それも縁ですよね。

 俺はフィジカルコーチもGKコーチもヘッドコーチも一通りやってきた監督なので、練習の流れを自分1人でも描けるんです。でも描けるからと言って、担当者に「こうしてくれ、ああしてくれ」というのは、あまり好きじゃないんですよ。部門ごとに細かく指示を出すというのは。

――早川さんは「手倉森さんはとにかく、僕らの意見をよく聞いてくれるんだ」という話をされていました。

 信頼している証しですよね。意見を吸い上げるというより、「みんなでやっている」という雰囲気を作りたいとは常に思っています。全員でやっているチームなんだ、と。自分がコーチをやっているときも、監督からガヤガヤ言われるのは大っ嫌いでしたからね(笑)。だから自分が監督になったらそうしないということです。

選手には「歴史を新しく作ろう」と話している

指揮官の信頼は、選手たちにも伝わっている 【Getty Images】

――以前、遠藤航選手が「手倉森さんはまず僕たちを信じてくれた」という話をしてくれたのがすごく印象的でした。

 お前たちはすごく可能性があるんだという話はずっとしてきました。あと、俺は勝てない選手のほうが好きだとも言いましたね。仙台もそうだったという話をして、そして何より彼ら自身がその気になってくれた。その気になってくれた彼らを、俺も好きになったということだとも思います。「勝たせてやりたい」と自然に思って、彼らもまた本当に3年で変わったと思います。なんだかんだ言って、今までの五輪世代よりも、Jリーグの試合に出ている選手の人数は多くなっていますからね。実はすごい成果が生まれてきていると思っています。

――伸びてきた選手をうまく使ったチームが結果を出している印象もあります。

 そう、新しくいい選手を取り入れてくれているチームは変わりますよね。川崎フロンターレとかそうですし、植田直通を使っている鹿島アントラーズもそうですし、それにサンフレッチェ広島もそうですよね。

――五輪本大会もドキドキハラハラは覚悟していますが。

 いや、五輪はドキドキハラハラの立場じゃないと思うんですよ。こちらは完全にチャレンジャー。なにせ大会自体に出られないと言われてきたチームですから、言うなれば「ワクワク」ですよね。「出られるだけでうれしい」とか「楽しみに行きます」とか、そういう意味じゃないですよ。でも、挑戦者として臨む大会だと思っています。「負けたらどうしよう」ではなくね。

――五輪は代表の未来が見える大会です。

 日本サッカーの将来の可能性を示すという、本当の意味でのメンタルの強さを見せられたときに、国民から「日本のサッカーが変わるかもしれない」と思っていただけるような大会にしたいなと思っています。だから期待して欲しいんです。メダルは目標なんですけれど、でもメダルがゴールではないというのも分かっています。

 歴史を塗り替えるという言い方もちょっと嫌いで、歴史を新しく作ろうという話を選手たちにしているんです。だから俺はこの大会で歴史を新しく作って、日本のサッカーの良い流れが芽生えてくれればいいなと思っているだけなんです。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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