岡田武史オーナーに魅せられFC今治へ 育成コーチが感じたメソッドの効果
言葉を整理することが重要
言葉が整理されたことで、渡辺コーチは子どもたちの「理解が早い」と感じるという 【スポーツナビ】
「どのカテゴリーのコーチも同じだったと思うのですが、みんながゼロからのスタート。岡田さんは『走りながら考える』ということをよく言われるのですが、まさにそんな感じでしたね。岡田メソッドの情報が、岡田さんと吉武博文さん(当時メソッド本部長、現在はトップチーム監督)から入ってくる。そしてそれをどう自分の担当している年代の選手たちに落としていくのか頭をひねる。その繰り返しでした」
ゼロからのスタートで、走りながら考えることを求められる日々。ただ、それは次第に形になっていく。
「ある程度トレーニングプログラムができてくると、それに沿ってやるわけですが、決まり切ったものではないんです。実際に練習で試してみて、『ここが良かった』『あれは良くなかった』という話をまたメソッド会議であったり、あるいは僕らコーチが週1回でやる「蹴会」というのがあるのですが、そこで議論するということを繰り返していました」
そこでは当然、上の世代の選手がこういう部分で詰まっているから、下の世代のうちからやっておいてほしいというような要望も落ちてくるという。トップチームの練習も見ているだけに、「大人になって始めると、こういうところで詰まるのか」と見えてくるものがあるのだとも言う。岡田メソッドの肝は「言葉を作ってイメージを共有できる型にする」ということにあるが、小学生年代に教える上での戸惑いはなかったのだろうか。
「まず自分自身が、言葉を整理することがこれほど大事なのだということが分かっていませんでしたね。子どもを教えていて、理解が『早い』と感じます。伝える言葉がシンプルになって整理されていて、選手たちにも分かりやすく伝わっていく感覚があります。くさびのパスのイメージについて何やら言葉を尽くして説明するのではなく、『シャンク!(※)』と言えば通じるわけですから。しかも、その感覚は周りの選手と瞬時に共有できるんですよ」
※シャンク……岡田メソッドで規定しているパスの種類。バイタルエリアに入れるくさびのパスのことを指す
共通理解に基づいて声が出るようになる
「すごくたくさんメソッドの項目や型がある中で、このU−12年代で何から落とし込むか。選手のレベルを見てどれをやったらいいかに関する僕らの判断は難しいですね。ちょっと難しすぎることを伝えてしまうとパニックにもなります。でも、簡単すぎたら成長もしない。どの型から伝えて、どう積み上げていくか」
ただ、それは同時に「やりがいでもあります」と言う渡辺コーチは、「それができなかったら僕ら多分、プロ契約をしていないと思うので、これができなきゃクビだよなって思いながらやっていますよ」と笑う。子どもたちの反応を見ながら、伝える言葉を選ぶ日々だ。
「子どもたちの反応は分かりやすいですよね。たとえば『シャンク』と言いながら出し手も受け手も反応して、試合の中で声が出るようになります。共通理解に基づいて声を出すようになる。それは状況を把握しているということでもありますから、活気は出てきたと思います」
日本人選手は相手を見る、状況を判断するという能力が総じて低いと評されることも多い。ましてやその感覚を共有するとなると、より苦手だろう。だからこそ、子どものうちからの積み上げが肝心になるというのが今治のアプローチだ。
「議論ができるようになってきているんです。試合を見ていても『今はシャンク!』とか『今はシャンクじゃない。外に付けるパスだろ』と。それって状況理解の話ですよね。言葉を整理している分、子どもたちはそれを使いやすくなる。その風景を見ていると、いいなと思います」
岡田オーナーはメソッドを日本の伝統芸能に息づく「守・破・離」にたとえた。型を守り、型を破り、型から離れる。まず型から入るということは、同時に「破」につなげていく必要もある。日本人は総じてこれを苦手とするわけだが、今治は子どもたちにどうアプローチしているのか。後編では、「破」につなげるための「野性」に関する考えを紹介する。