日本のバスケがドラマチックに変わる 東野技術委員長が語る強化プラン(前編)
JBAが新設した技術委員会の委員長に6月1日から就任した東野氏 【スポーツナビ】
東野技術委員長は、北陸高校から早稲田大を経て実業団で活躍。引退後は米国でコーチ業を学び、帰国後、世界選手権時の男子日本代表アシスタントコーチや、さまざまなトップチームのヘッドコーチ(HC)を経験してきた。2014−15シーズンには浜松・東三河フェニックスのHCとしてbjリーグで優勝を達成。また、そうしたコーチ実績だけでなく、長年取り組んできたアルゼンチンのバスケットボールの研究(一般男子の平均身長が日本と変わらないアルゼンチンが五輪で金メダルを獲得するに至った過程を分析)も高く評価され、今回の抜てきへとつながった。
ここでは東野技術委員長の単独インタビューを、前後編でお届けする。前編は、日本代表の強化について。変革の時を迎えた日本バスケットボール界は、どのようなプランで強化が進められていくのだろうか。JBA内の体制整備や日本代表の強化プラン、育成年代の環境整備など、東野技術委員長の考えを語ってもらった。後編はBリーグとの連携策についてお伝えする。
2020年に向け強化活動が本格的に始動
技術委員会は、上のカテゴリーから下のカテゴリーまで、強化・育成に関する全てを取りまとめる部門になります。トップのカテゴリーで言えば、代表監督の評価・選考をはじめとした男女日本代表の強化。また、アンダーカテゴリーの日本代表も含めた、ユースの育成というのも大きな柱です。また、指導者養成や、9月に始まるBリーグをどこまで世界基準に引き上げ、どのように日本の強化につなげるかも考えます。そして、一つの特徴と言ってもいいと思っていますが、スポーツパフォーマンス、つまりフィジカル、フィットネスを高めるといったことにも取り組んでいきます。
日本は世界にどう対抗していくのかについて、本当の意味でさらに深く研究しなければなりません。世界も日々進歩しており、全カテゴリーが同じ方向を向いて集中していかなければ太刀打ちできないと思います。今の日本に何が足りないのか、強化・育成のためにどういったプロジェクトが必要なのかということを、いろいろな情報を共有しながら、考えていく必要があると考えています。
――その中でも、男子日本代表に限って言えば、最重要課題は何でしょうか?
現在(※取材日は6月29日)で言えば、直近の目標は7月4日から始まるOQT(FIBA男子五輪世界最終予選)でまず1勝すること(編注:結果は2連敗で予選敗退)。そして五輪へのチャレンジ。その後は、2020年の東京五輪に向けた強化です。20年に向けてどういった選手を選び育てていくのか、さらに帰化選手に関しても考えなければいけません。また東京五輪までにアジアのトップクラスに名を連ね、ワールドカップ(19年中国大会)への出場を実現させなければなりません。OQTの結果を見て、そうしたプロジェクトに取り組んでいこうと思っています。
――現段階で、どのようなプロジェクトをお考えですか?
まずサッカーのようにテクニカルハウスを作り、情報を共有しながら徹底的に分析し、現状把握をする必要があります。今の日本が世界の中でどのような位置にあるのかを分析し、その上で日本がどんなバスケットのスタイルで戦っていくべきか、いわゆる“ジャパンズウェイ”を作っていく。そうした目指すべき形は、ナショナルチームからアンダーカテゴリーまで、つながっていなければなりません。4年後には、U−23、U−18、U−16の選手がそのまま日本代表に入るかもしれないわけですから、これからは世代間で戦術を共有することにも取り組まなければならないでしょう。そうすれば、幅広い層にチャンスが広がるのではないかと考えています。
もちろん、これができれば勝てる、という理想論はいくらでも語れます。ただ実際には20年までもう時間的な余裕はありません。そんな状況において最短距離でチャレンジするために、そして日本が世界で勝つために、徹底的な現状把握と分析が必要なのです。例えば、ペイント(エリア)内に入る回数とフィールドゴールパーセンテージの関係性や、世界との戦いでパスの回数とオフェンスの成功率など、数字的な分析も必要となるでしょう。幸い、日本にいる若いコーチたちは数字・統計に強い人が多く、日本のバスケットボール界で頭角を現してきています。そうしたコーチたちが活躍できる場を作るのも、私の仕事だと思っています。
“ジャパンズウェイ”の共通理解
強化活動が本格的に始動したバスケットボール日本代表。“ジャパンズウェイ”を作ることが重要と東野技術委員長は語る 【スポーツナビ】
そこはまだ話し合いの段階ですが、まずシュートは全てのポジションにおいて、もっとレベルアップしなければ話にならないでしょう。日本にとって、オープンショットをどれだけ決められるかは生命線ですから。
また、40分間ディフェンスでハードにプレッシャーをかけられるフィジカル、フィットネスの養成。そして、パス技能向上の問題もあります。これまでの歴史を振り返っても、世界に通用した日本人選手は総じて強いパスが的確に出せる選手でした。常に攻めるという基本的な部分を大切にしながら、状況を判断しなければならない。その中で、タイミング良く強いパスが正しい位置に出せるかどうか。パスに限らず、状況判断能力は世界と戦うために日本がもっと磨かなければならない部分だと感じています。ピック&ロール(※1)の使い方をもっと世界に学ぶことも必要でしょう。
あとはもちろん、個人ではなくチームの輪で攻めるといったことも重要です。そうした目指すべきスタイルをみんなの共通理解にした上で、どうしたら強化できるのかについて取り組んでいく必要があります。
――話が少し逸れますが、近年、NBAではゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン・カリーが大活躍しています。身長がさほど大きいわけではなく、ものすごい身体能力を持っているわけでもない選手が、シュート力やハンドリング能力で勝っていくというスタイルは、日本も目指せるのではと考えている人も多いと思うのですが。
私もそう思います。逆に「先にやられたな」という感じはあります。日本はやはり、セオリーから考えれば奇想天外でも、とてつもないシュート確率だったり、驚くようなテクニックで勝負しなければ世界と戦えません。でも、日本のバスケットボール界には、実はスキルコーチがほとんどいないのです。分かっていても、これまで本格的にやってこなかったわけですよね。ファンダメンタル、つまり基本をもっと見直すことが必要です。理想を語るだけでは何も始まらないですし、結局、地道なことの積み重ねこそ重要なんです。
それは、ただがむしゃらに練習するだけが全てではなく、やはり海外での合宿を増やすなどしてマッチメークを行い、自分たちより強い選手やチームに対する経験を数多く持つこと。これしかありません。その交渉をすることも地道な仕事の一つ。そうした地道な積み重ねこそが日本のバスケットボールを変えるということを、私は世界選手権の経験を含めた3年間、日本代表のスタッフの中で学びました。そういう意味では、20年までの残りの1日1日がレンガの積み重ねですね。例えそれが崩れても、もう一度積み直し、さらにその上に載せていく作業の継続であると思っています。
※1:ボール保持者をマークするディフェンダーに対しスクリーンを仕掛け、ボール保持者の移動を自由にし、さらにスクリーナーが方向転換して自らフリースペースでパスを受けるプレー