手倉森ジャパンが五輪で狙うスタイルは? リオ代表vs.ロンドン代表 データ徹底比較

ロンドン五輪は予選と本大会で戦い方を激変させた?

ベスト4入りを果たしたロンドン五輪代表。「ロンドン五輪は予選と本大会でスタイルを激変させた」という解釈は妥当? 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 ロンドン五輪本大会のデータが分かりやすいだろう。アジア予選まではポゼッション型のチームを作ってきたチームだったものの、本大会での「ボール支配率」が59.8%から47.2%に急減したことが物語る通り、カウンター中心での戦いを強いられることとなったのは明らかだ。

<ロンドン五輪最終予選と本大会の比較>
ボール支配率 59.8%→47.2%
パス前方比率 36.3%→37.1%
奪ってからシュートまでの平均経由時間 20.0秒→17.2秒
奪ってからシュートまでの経由パス本数 6.1→5.1


 ただ、「パス前方比率」「奪ってからシュートまでの平均経由時間(秒)」「奪ってからシュートまでの経由パス本数」といったデータが、予選段階から大きく変わっていないことを考えると、一般に言われる「ロンドン五輪は予選と本大会でスタイルを激変させた」という解釈は妥当ではないとも言える。ロンドン本大会でも予選から積み上げた“やりたいサッカー”自体は継続していた部分も多かったのだ。ただ、相手との力関係から押し込まれる時間が長くなり、結果として「カウンタースタイルで勝ち上がった」という印象を残したというほうが適切なのではないだろうか。

 手倉森監督は来たるリオ五輪本大会について「(相手との力関係から)6割くらいは押し込まれるゲームになる」と率直に予想しているが、これは入念に分析したロンドンの内容も踏まえてのものだろう。もちろん、「押し込まれるから勝てない」とは言っておらず、むしろ押し込まれる中でどう戦うかを追求してきたのが手倉森ジャパンである。アジア予選からのスタイルを継続した先に本大会は位置づけられている。

勝負するための“個性”はそろっている

リオ五輪本大会で勝負するための“個性”はそろっている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 アジア予選と世界大会で戦い方を様変わりさせるのは、2010年のワールドカップ南アフリカ大会における岡田ジャパンのように、各年代の日本代表でいくつかの例があるのだが、このチームは“ありのまま”でいける強みがある。どうせボール支配率は負けるのだが、そこに勝敗を分ける要素は持たせない。この2年半の活動を通じて、選手たちも「押し込まれる」ことへのストレス、忌避感は希薄になった。「我慢するときは、我慢すればいい」(MF遠藤航)という“悟りの共有”を予選段階から積み上げていることは、リオチームが持つ明確な強みである。
 勝負するための“個性”はそろっている。リオ五輪代表のAFC U−23選手権予選・本戦、トゥーロン国際大会の計13試合における個人データを見てみると、一貫したスタイルの中で各人の“個性”も明確に浮かび上がる。押し込まれる展開でDF植田直通が図抜けた「空中戦勝利数」「クリア数」を稼ぎ、「タックル数」なら遠藤航と原川力が際立ち、同様に「ラストパス数」ならMF矢島慎也が、フィニッシュワークの手前の「ドリブル数」ならMF中島翔哉が、「敵陣ペナルティーエリア内プレー数」ならばFW浅野拓磨が突出するといった具合だ。

 ここに加わったオーバーエイジの3人も今季のJリーグのデータを紐解くと、相当な“個性派”であることが分かる。DF塩谷司は「DF登録選手のシュート数」「アタッキングサード(ピッチを3分割した際の敵陣側)への前方ロングパス数」「アタッキングサードへの前方ロングパス成功数」「ゴールの2・3プレー前でのパス成功数」という攻撃的な要素でリーグ1位の数字を残している選手。セットプレーからの得点力とカウンター、フィニッシュにつなげるパスに期待のできるアタッキングストッパーだ。

 また、左DFの藤春廣輝は「1試合平均スプリント数」でリーグ3位に入り、「スルーパス受け数」というマニアックな数字でリーグ1位を記録するランナータイプの疾走系サイドバックである。

 ラストピースとも言えるFW興梠慎三は今季J1・1stステージで8得点(リーグ4位タイ)という実績だが、「ペナルティーエリア内でのパス受け数」「クロス受け数」でリーグ1位の数字を残している“受けの達人”。浅野という“飛び出しの達人”がすでにいるだけに、この組み合わせで何が起きるかは、本大会に向けたひとつの見どころであり、ポイントとなりそうだ。

メキシコ大会以来の「メダル」を手にするために

 相手との力関係からアジア予選と世界大会で戦い方の変化を迫られたロンドン五輪代表に対し、最初から本大会での力関係を想定して「柔軟性と割り切り」というコンセプトを突き詰めてきたリオ五輪代表。それらはすべて4位に食い込んだロンドン五輪を超え、1968年メキシコ大会以来となる「メダル」を手にするために突き詰めてきたものでもある。

「最初に辛抱させられながらも、相手の強みをしっかりと受け止めた中で、相手の弱みを探りながら隙を突いていく。そしてゲームを読みながら、勝利をもぎ取るというスタイルが、私は今の日本代表のスタイルだと思っています。そういったゲームをコントロールしながら、読みながら、相手の心理もくみながら、小さな隙を大きな穴にしていく。そういう戦いを本大会ではしていきたい」(手倉森監督)

 スタイル、方向性は明瞭。あとは、一貫して積み上げてきたものをぶつけるのみとなる。

(文:川端暁彦、グラフィックデザイン:相河俊介)

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