「赤い傘」論争で考える応援のあり方 カネシゲタカシの『ぷぷぷぷプロ野球』

カネシゲタカシ

ライト層を支えるフロンティア精神

 応援という行為は、行き着く所は宗教信仰のようなものです。「赤いドアラ耳」などは単なるキャラクターグッズですが、ヤクルトファンにとっての傘は“信仰の象徴”。大げさにいえば数珠とか十字架とかそういうものに近いのかもしれません。それを他宗教のひとが安易に使っちゃまずいでしょうという話です。

 今回の「赤い傘騒動」に関して、ヤクルトファンもカープファンも、ライト層ほど「気にしない」「面白い」ととるだろうし、コア層ほど「不快」「ヤクルトファンに申し訳ない」ととるでしょう。この差はいわゆる“信仰の深さ”の違い。クリスマスにどんちゃん騒ぎをするのか、教会で静かに祈るのかの差に似ているのかもしれません(もちろんコア層でも「赤い傘」を笑って受け入れている人はいます。あくまで一般論として)。

 しかし、この「ライト層のファン」というものが、いまの球界にとってどれだけ大切な人たちかという視点は忘れてはいけないと思います。

 ここ何年かのカープブームと言っていい盛り上がりは、ライト層の参入抜きには絶対に語れません。そしてそれを支えているのはユニークなグッズを次々と生み出したり、「赤いシリーズ」のような攻めた企画を生み出すカープ球団のフロンティア精神であることは間違いありません。

 攻めているからこそ、細やかな配慮に欠けてしまうことはあるでしょう。そこはトライ・アンド・エラーで反省を加えつつ改良が必要です。でも攻めることをやめてしまったら、それは球界全体の損失です。カープ球団は「とにかく盛り上げたい」というサービス精神が強い。そのおかげで増えたカープファンは他球団本拠地のビジター席をもぱんぱん埋めて、球界全体に大きな利益をもたらしてくれているのですから。

試行錯誤しつつ育ててほしい

ハマスタの三塁側を埋め尽くすカープファン 【カネシゲタカシ】

 また、そもそもカープといえば、いまではどの球団でも定番となっている「トランペット応援」や「ジェット風船飛ばし」を最初に始めた球団でもあります。それらを他の球団が真似しても、懐深く受け入れてくれたのがカープという球団なのです。

 例えば今回の「赤い傘」企画、もう一歩踏み込んで「ヤクルトファンも神宮で広島名物スクワット応援に挑戦!」みたいな交流企画だったら良かったのかもしれません。またさらにヒントを探るなら、6年前の神宮球場では「カープファンクラブ感謝企画」としてカープファンに赤い傘が配られ、両軍スタンドが傘応援で盛り上がったこともあったとか。

 試行錯誤を繰り返しつつ、カープ球団にはこのユニークな「赤いシリーズ」を、もっと誰もが安心して楽しめる企画に育てていただけたらと願うばかりです。

楽しく応援できるプロ野球界に――

 応援を信仰に例えた時に、ふと思い出した光景があります。それは「クリスマスを祝うお坊さん」という、何年か前にみたニュースの映像です。

 お寺のお坊さんが赤いサンタ帽をかぶって、本堂に飾られたクリスマスツリーの前で子どもたちにプレゼント渡してるんですね。たぶんケーキも食べてたんじゃないかな。なかなかのオモシロ映像でした。

 で、そのお坊さんは映像のなかでこんな風にコメントしていました。

「本当はいけないのかもしれないけど、子どもたちが喜ぶからいいかなって」

 僕はこのお坊さんのことが大好きになりましたし、すごく信頼できると思いました。このお坊さんは宗教者である前に、子どもたちの笑顔が好きなのです。それって信仰よりもずっと大切なことではないでしょうか。なによりお釈迦様は、そのお寺のクリスマスという光景をきっと笑顔で見つめていた思うのです。

 傘応援を考案したヤクルトの岡田正泰応援団長は、楽しい応援でファンに喜んで帰ってもらうことを一番のモットーにしていたそうです。たぶんヤクルトファンである前に野球ファンであり、何より人の笑顔が大好きな素敵な方だったのでしょう。
 
 そんな岡田さんなら、天国から赤い傘の応援を見て、ニヤリと笑ってらっしゃるかもしれません。

 球団への愛を競いながら、ときに仲良くケンカしながら、相手へのリスペクトを忘れず、楽しく応援できるプロ野球界でありますように――。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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