手倉森ジャパンは五輪をどう戦うのか? 選手選考から読む戦略のポイント
「18番目」として用意したボランチ
指揮官はボランチに遠藤(3番)や原川(7番)ら4名を選出。そこに本大会における戦略のポイントがある 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
最終予選で活躍した豊川雄太(ファジアーノ岡山)のような攻撃の切り札になる選手を選ぶというのも手だろうし、オナイウ阿道(ジェフ千葉)のような高さのあるFWという選択もあった。守備のユーティリティープレーヤーとなれる橋本拳人(FC東京)や中谷を選ぶ手もあったはずだが、指揮官が選んだのは生粋の「ボランチ」である。各役割に3名ずつを置く(つまり、2つのポジションに3名を用意する)編成の中で、ボランチだけは大島僚太(川崎)、遠藤航(浦和レッズ)、原川力(川崎)、井手口陽介(ガンバ大阪)の4名で構成されている。
この理由について指揮官は「この大会に挑む時に、攻撃的にやれるのか。僕は必ず押し込まれて、守らなければならない状況が続く大会になるだろうなと、6割方思っています」とした上で、「後ろを万全にしておきたかった」と答えている。本大会に向けて指揮官が強調する「割り切り」「柔軟性」「メリハリ」の3要素と合わせて考えると、対戦相手ごとの特別なプランを温めている可能性はありそうだ。
まず考えられるのは、FWを削って3枚のボランチを同時起用する形で、これまで何度も試してきた、俗に3センターハーフと呼ばれるシステムがある。試合を落ち着かせたいときにボランチ(たとえば原川)を途中出場させてこの形に変化することもやってきたが、五輪本大会でもその形をひとつの武器にしようとしている可能性は高い。
同時に「遠藤航という後ろの(ポジションを)どこでもやれる選手がいる」とも答えていたが、遠藤を後ろに下げての3バックシステムも策として準備するつもりなのかもしれない。これまたずっと試してきたシステムなので違和感もないが、すでに具体的な構想があるのかもしれない。押し込まれる展開が予想される第2戦のコロンビア戦、あるいはサイドバックが高さで負ける可能性の高い第3戦のスウェーデン戦での採用はありそうだ。その場合はボランチが足りなくなるので、このポジションに選手を確保しておきたくなるのは当然の選択とも言える。
覚悟と自身を持って本大会へ
アジアで負け続け、決定的に自信が欠けていた選手たちに、手倉森監督は「大丈夫」と語りかけ続けてきた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
U−23日本代表は「託す側」と「託される側」に分かれ、本大会を戦う五輪代表の18名は定まった。恐らく戦い方も定まっているはずだ。指揮官の戦略は明確で、戦術的な支度にも不安はないとなると、あと必要なのは体力的な準備、そして精神的な覚悟ということになる。
オーバーエイジ選手が合流しても変わらず主将であることが明言された遠藤は以前、こんなことを言っていた。
「テグさん(手倉森監督)は、僕たちの力を信じてくれた。自信をくれたんです」
アジアの主要な国際大会で負け続けた背景を持ち、決定的に自信を欠いていた世代に対して手倉森監督は常に泰然と振るまい、「大丈夫」と語りかけ続けてきた。それは本大会においても絶対に変わらない。ブラジルの地でぶつかる多彩でタフな世界の難敵たちを前にしてもきっと変わらず、こう言い切るはずだ。「お前らならやれる」と。