中村憲剛が振り返る1stステージ終盤戦 優勝を逃した自責の念と積み上げた自信と

飯尾篤史

最終節は左サイドハーフで出場

大宮戦の勝利で、川崎は勝ち点を38まで伸ばした。2位ではあるが、連敗は一度もなく、2試合続けての引き分けもない 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 痛めた日からトレーナーが毎日、オフも返上して治療にあたってくれたことで、週の半ばにはプレーできる程度に痛みが治まってくれた。トレーナーに感謝してチームに合流した中村に対し、風間八宏監督が用意したのは、ボランチやトップ下よりも負担の少ない左サイドハーフでの起用だった。もっとも、練習でAチームの左サイドハーフを務めたのは5分にも満たない程度。大宮戦にはほぼぶっつけ本番の状態で臨んでいる。

「風間さんからは『守備のときは左にポジションを戻して、攻撃は自由にやれ』って言われていたんです。だから『トップ下・中村憲剛を左でやる』というイメージで臨んだ。『え、左サイド?』と思った人もいるかもしれないけれど、日本代表でも左サイドハーフでプレーしたことがあるし、自分の中では悪いイメージはなかったですね」

 22分にピッチ中央からのスルーパスで大塚翔平の先制ゴールをアシストした中村は、56分、右サイドからドリブルでペナルティーエリアに進入して左足を振り抜き、ボールを左サイドネットに突き刺した。

「(左サイドでのプレーは)最初はどんな感じになるのかなって、自分でも楽しみだった。周りが合わせてくれたので、やりにくさはなかったですね。(トップ下に入った)翔平も良かった。翔平は潤滑油だから、僕と嘉人(大久保)、悠(小林)の3人と絡んで、っていうシーンが随所にあった。この立ち位置も面白いなって思いましたね」

 この日の勝利で、川崎は勝ち点を38まで伸ばした。ファーストステージは2位に終わったが、連敗は一度もなく、2試合続けての引き分けもない。それに1敗しか喫していないのも川崎だけだった。

「セカンドステージに向けて、いいリスタートが切れた」

最終節を勝ち切り、「セカンドステージに向けて、いいリスタートが切れたと思う」と中村は前を向く 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 なぜ、フロンターレは今季、好調を維持することができたのか。中村がまず挙げたのは「立ち返る場所が明確になったこと」だった。

「風間さんが監督に就任して5年目。今までやってきたことがついに成熟してきたというか。今年はとにかくボールを握って相手陣内に押し込んで、そこから守備が始まる。まず守備ではない。それはボール保持率が60%を超えるようになってきたから、できることでもある。自分たちがやれば、相手がバテて崩れていく」

 それでも90分間ずっと自分たちが押し込めるわけではなく、相手の時間帯になることがある。そこで「我慢できるようになったこと」が2つ目のポイントだという。

「エドゥ(エドゥアルド)や奈良ちゃん(竜樹)、井川(祐輔)や彰悟(谷口)ら守備陣が体を張って防いでくれたのが大きい。そうやって守備陣が踏ん張ってくれるから、それに応えようと、攻撃陣もゴールをこじ開けるという良いサイクルが生まれてきた」

 さらに「若手の成長と選手層の厚さ」についても中村は言及した。

「悠はもちろん、ノボリ(登里享平)や僚太(大島)、彰悟、紳太郎(車屋)が本当の意味で中心選手としての自覚を持てるようになってきた。それはプレーだけでなく、発言を聞いていれば分かる。これまでは自分中心のコメントが多かったけれど、今はチームに対するものが増えている。

 それに、翔平や(エドゥアルド)ネットの台頭も大きい。練習で成長して認められ、チームにスッと入ってリズムを崩さないでやってくれている。“目がそろっている”選手が増えてきた。日々の練習が試合のピッチにつながっているんですよ。だから今は、みんなが虎視眈々(たんたん)とレギュラーを狙っている」

 そう力説する中村は表情を一瞬曇らせて「だから、やっぱり俺のせいかな、取れなかったのは……」と呟いた。

「このままタイトルを取れずに終わったら、福岡戦の心残りは一生続くと思う。でも、次の試合はすぐに来るし、引きずっていてもしょうがない。目の前の試合に勝つことだけを考えています。それに、大宮戦で自分もチームもグダグダだったら落ち込んでいたと思うけれど、あれだけ素晴らしい雰囲気の中、しっかりと勝てた。セカンドステージに向けて、いいリスタートが切れたと思う。ファーストステージを戦い終えて、“鹿島の勝者のアイデンティティー”っていうのは、こういうことの積み重ねで生まれるんだろうっていうのがつかめたんです」

 ファーストステージは終わったが、ここまで積み上げてきた勝ち点と自信、チームを取り巻く流れがなくなるわけではない。7月2日からはセカンドステージが始まる。年間優勝という初タイトル獲得を目指して、川崎フロンターレと中村憲剛の戦いは続く。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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