ベルギーが見せたカウンターへの転身 イタリア戦の完敗から立ち直り、決勝Tへ

中田徹

アイルランド戦で実現した「見たかったベルギー代表」

初戦でイタリアに完敗しその手腕が疑問視されたウィルモッツ監督(奥)。アイルランド戦ではスタメンを変え、勝利を手にした 【写真:ロイター/アフロ】

 苦しい試合を制したベルギーは、グループリーグを2勝1敗で終え、首位イタリアと並ぶ勝ち点6で終えたが、直接対決で負けていたことから2位で勝ち上がりを決めた。そのイタリアは「死の山」に入り、いきなりスペインと当たることになった。今から思えば、初戦でイタリアに負けたのもベルギーにとっては運が良かったのだ。

 それが結果論であることは間違いない。0−2でイタリアに完敗した直後、アントニオ・コンテ監督との手腕の差が疑問視されたウィルモッツ監督は、ベルギーメディアと国民から「監督の発言は一貫性がなく、それが選手にも迷いを生んでいる」などと批判された。しかし、アイルランド戦のスタメンが発表になると、ベルギー人はSNSで「これが見たかったベルギー代表」と歓喜した。

 アイルランド戦のスタメンは以下のとおり。GKティボ・クルトワ。DFトーマス・ムニエ、アルデルワイレルト、フェルマーレン、ヤン・フェルトンゲン。MFウィツェル、ムサ・デンベレ、デ・ブルイネ。FWヤニック・カラスコ、ロメル・ルカク、エデン・アザール。イタリア戦との違いは4点あった。

(1)ベテランの割に代表経験の少ないローラン・シマンを外して、超攻撃的な右サイドバック、若手のホープのムニエを抜てき。
(2)技術に乏しいマルアン・フェライニをレギュラーから外し、テクニックと守備力を併せ持つデンベレを起用。
(3)デ・ブルイネを右ウイングからトップ下にコンバートし、左ウイングのアザール、ストライカーのルカクとの連係を取りやすくした。
(4)右ウイングは進境著しいカラスコを入れた。残り20分でドリース・メルテンスを投入するパターンは従前どおり。

 なお、中盤をウィツェル、デンベレ、デ・ブルイネで組むことになったため、ナインゴランが外れたが、決して彼の評価が下がったわけではない。

ポゼッションからカウンターにスタイルを変えたベルギー

 この新メンバーが、ベルギーに思わぬ化学変化を起こした。本来はポゼッション型のサッカーを志向するベルギーだが、アイルランドを電光石火のカウンターで恐怖に陥れたのだ。48分にベルギーが奪ったルカクの先制弾は、アイルランドのFKを防いでからデ・ブルイネとルカクがカウンターを発動させたもの。70分のダメ押しゴールとなった3点目は、右サイドバックのムニエのボール奪取が起点となり、アザールのロングカウンターからルカクが仕留めたものだった。

 このカウンター戦術を支えているのがデ・ブルイネだ。イタリア戦では右ウイングを務めたものの、サイドで二重のマークを受けて孤立。「ベルギー代表デビュー以来、最低のパフォーマンス」と心配されていたデ・ブルイネであったが、アイルランド戦では中盤に入って息を吹き返し、キックテクニックの高さ、ランの質の高さ、戦術眼の高さといった持ち味をカウンターで発揮させていた。

 ルカクは足元の技術に難があるため、ポゼッションサッカーだと、彼のところで攻撃が詰まってしまう傾向があった。しかしカウンターサッカーだと、スペースが生まれて前線での迫力が生きる。イタリア戦の不出来でスタメン落ちもささやかれていたルカクだったが、この試合の2ゴールで批判の声を吹き飛ばした。61分の2ゴール目は、28本ものパスをつないいだ、ロングポゼッションから生まれたゴールだった。色気のあるサッカーで、相手を崩し切れる能力をベルギーの個々の選手は持っている。それでも、ベルギーがアイルランド戦で得られた自信は、カウンターによるものだった。

カウンターでより相手を震撼させるために

ベルギーのラウンド16の相手はハンガリー。カウンターはより研ぎ澄まされるか 【写真:ロイター/アフロ】

 そして迎えたスウェーデン戦。足首を負傷したデンベレが外れてナインゴランがスタメン復帰した他は、全員がアイルランド戦と同じメンバーだった。この試合でも、ベルギーはカウンターを何度も繰り返して相手ゴール前まで迫り続ける。スウェーデンは勝つことが必要不可欠だったため、ベルギーにとってはスペースが生まれやすい好条件であった。デ・ブルイネのルックアップからスイッチが入って、ルカク、アザール、カラスコ(交代のメルテンス)が相手ゴール前まで疾走を繰り返す様は、ものすごい迫力が感じられた。

 もっとも、ダイレクトにゴール前まで攻め切れそうな場面で、テンポを落としてしまった場面もあるにはあった。そこが改善されれば、ベルギーのカウンターはより相手を震撼させるものとなるだろう。そんなベルギーのラウンド16の相手は、ハンガリーに決まった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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