メッシにリーダーの気質はない? 巻き起こる論争にプレーで見せた答え

1つではないリーダーシップの形

パナマ戦の2日前に物議を醸す発言をしたマラドーナ(左)。果たして本当にメッシにはリーダーの気質がないのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 マラドーナが冒頭のコメントを発したのはこの2日前のことだ。果たして本当にメッシにはリーダーの気質がないのだろうか。それとも彼は、もっとピッチ外で持論を展開し、メディアへの露出度を高め、ライバルのラフプレーを批判し、頻繁にレフェリーに抗議を行わなければリーダーとは呼べないと言いたいのだろうか。

 フットボールにおいても人生においても、リーダーシップの形は1つにとどまらない。マラドーナは多くのフットボールファンのリスペクトを集めるカリスマ性を持っていた。フットボール以外の分野にも興味を持ち、ローマ法王やフィデル・カストロ、ジョージ・ブッシュ、アルゼンチンの政治家など、多くの要人たちと交友関係を築いた。ピッチ上では判定をめぐってレフェリーと激しくやり合う男だった。

 だが、メッシは違う。より内向的な性格の彼は、フットボールをプレーすることにしか興味がなく、プライベートでは庶民的な生活を保ち、フットボール以外の話題について公に意見することはない。自身の活躍がバスケットボール界のスター、マイケル・ジョーダンに例えられれば「言い過ぎだよ」と返すような男である。

 それでも今回のパナマ戦のように、ピッチ上では常に期待に応えてきた。もしメッシがいなければ、アルゼンチンは10人の相手に対して1点のリードを保つことに専念していたことだろう。メッシのおかげであらゆるプレーがシンプルにでき、5−0のゴールラッシュを実現できたのだ。

プレーを通じてチームを引っ張るメッシ

メッシが持っているのはマラドーナと異なる形のリーダーシップだ 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 常にボールを求め、プレーを変え、システムを変え、試合の流れを引き寄せ、わずかな時間にあらゆるチャンスをゴールに変えてしまう。そんな選手をリーダーではないと言えるだろうか? プレーを通してチームを引っ張る。マラドーナとは異なる形のリーダーシップに必要なのは派手なコメントなどではなく、輝かしいタレントなのだ。

 2〜3年前と比べればその数は随分と減ったものの、いまだにアルゼンチン国内にはメッシ批判を繰り返す人間がいる。その傍ら、メッシはガブリエル・バティストゥータが持つ代表通算54ゴールの記録まであと1ゴールと迫り、アルゼンチン代表の歴代最多得点記録を塗り替えようとしている。

 アンチ・メッシ論者の多くは、マラドーナが成し遂げたW杯優勝をメッシはまだ経験していないと指摘する。だが、彼がバルセロナで築いてきた輝かしいキャリアは、その点を補って余りあるほどの説得力を持つ。そもそも彼の選手生活はまだ終わってもいない。

 リーダー? メッシがそんな議論に加わる気配はない。彼の答えはいつだって、ピッチの上でボールを通して発せられてきたのだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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