30代、40代が「寝たきり予備軍」? あなたの「足腰力」は大丈夫!?

茂田浩司

「若々しい人」と「老け込む人」の違い

【写真1】 【茂田浩司】

――まず「足腰力」とは何でしょうか。

「『シャキシャキと、軽快かつパワフルに歩き回ることの出来る足腰の力』のことで、私が定期的に開催している高齢者向けのセミナーで使ってきた言葉です。70代、80代になっても背筋がシャキっと伸びて若々しい人と、年々腰が曲がり老け込んでしまう人の違いはどこにあるのか。私はリハビリテーションを通して様々な高齢の方を見て、話をうかがう中で、その違いは『足腰力』にある、という結論に達したのです」

――若々しい人と、老け込む人では「足腰力」は違うものですか。

「その差は歴然としています。若々しい人は若い頃から活動的で、高齢になってもどんどん外に出て歩き回ります。ですから<よく動く→しっかりと筋肉を使う→筋肉が発達する→もっと動く→いつまでも若々しい>という好循環なのです。逆に、老け込んでしまう人はもともとあまり歩きません。となると<1日の活動量が少ない→筋肉を使わない→筋肉が衰える→体のあちこちに痛みが出たり、古傷を悪化させる→ますます動かなくなり、老化が進む>という悪循環なのです」

――なるほど。

「ただし『歩けば若くいられるか』といえばそうとも限りません。今、高齢者の間には『歩いて健康を維持しよう』という意識が定着していて、街中や公園で熱心に歩く高齢者の姿をよく見かけます。そのこと自体は大変良いことなのですが、残念なことに『姿勢』が悪いのです」

――歩く姿勢、ですか。

「私が正しい歩行フォームを実演してみましょう(写真1)。視線は真っすぐ、10メートル前方を見て、姿勢は胸を張り、背すじが真っすぐに伸びていることを意識します。足は、ヒザを伸ばすことを意識し、カカトで着地してつま先で後ろに蹴って進みます。足は『骨盤から動かす意識』で動かし、腕はしっかりと『後ろに引くこと』を意識してください」

【写真2】 【茂田浩司】

――足がスッと前に出ますね。

「しかし、高齢者の方は背中を丸めて、足元を見ながら、小さな歩幅で歩いています(写真2)。私は『高齢者のコチョコチョ歩き』と名づけて、警鐘を鳴らしてきました。この歩き方は足先が上がりにくく、つまずきやすいのです。高齢者がつまずくと『転倒、骨折』の危険があり、最悪の場合は寝たきりになってしまいます。健康のためのウォーキングで、逆に健康を損なってしまうことになりかねないのです」
――怖いですね。

「そこで、高齢者の『骨折、転倒』を少しでも減らすために、私は高齢者向けに『正しい姿勢と正しい歩行フォームを身につけて、足腰力をアップしましょう』と指導してきました。ところが、最近、気になるのが街中でスマートフォンを操作しながら歩いたり、電車の座席に座っている若者や中高年の方たちの『姿勢』です。頭が前に倒れ、背中は丸まり、腰は後傾して、歩幅も狭い。まるで高齢者のような姿勢と歩き方で『足腰力』もかなり弱っているのではないかと私は見ています。このままでは将来、寝たきりになる人が飛躍的に増えてしまいますよ」

「正しい姿勢」が維持できない人は「大腰筋(だいようきん)」が衰えている

【写真3】 【茂田浩司】

――どうしたらよいでしょうか?

「まずはご自身の姿勢をチェックしてみましょう。背すじのピンと伸びた、正しい姿勢で立っているかどうかを簡単にチェックする方法があります。壁を背に、カカトを壁にくっつけて立ってみてください。私が実演してみましょう(写真3)。後頭部の髪、肩甲骨、ヒジ、お尻がちゃんと壁に付いていれば、背すじのピンと伸びた正しい姿勢になっている、ということです」

【写真4】 【茂田浩司】

――意外と難しいですね。ヒジを壁に付けようとすると、結構力を入れて腕を後ろに引かないと……。

「そういう方が多いですよ。猫背の人は肩甲骨が壁に付きませんし、ヒジが付かない人は『猫背気味である』といえます。肩の位置が体の前に出てしまい、背中が丸まっている証拠です。また、最近目に付くのが『肩甲骨は壁に付くのに、お尻が付かない』という人です(写真4)。お腹が突き出て、背中が反りかえっています。肥満の人に多い姿勢なのですが、最近、若い人や中高年でやせ型なのにこの姿勢で歩く人を見かけます」

【写真5】 【茂田浩司】

――姿勢の悪さはどうしたら直せますか?

「『正しい姿勢』を覚えることから始めましょう。壁を背にして立ちます。カカトを壁にしっかりとくっつけたら、胸を張り、肩甲骨とヒジとお尻を壁に付けてください。後頭部は『髪が軽く触れる程度』です。頭を壁に押し付けようとすると、アゴが上がって姿勢が崩れてしまいます」

――しかし、なぜ若者や中高年は姿勢が悪いのでしょうか?

「『足腰力』を構成する大事な筋肉、大腰筋(だいようきん)が衰えていることが考えられます。大腰筋は、腹部の深層部にあり、背骨と太ももの骨をつないでいる筋肉です。太ももを引き上げて、足を前方に出す時に働く筋肉で、同時に『背骨を支える役割』も果たしています。ですから『平坦な道でもよく足がひっかかる人=歩く時に足がしっかり上がっていない』、『姿勢が悪い人=背骨を支える筋肉が衰えている』ということは、大腰筋が衰えている可能性が高いですね」

――どうしたら大腰筋を鍛えられますか?

「様々な方法がありますが、今日は会社や学校や家庭で簡単にできて、体力のない人もできる『イスにつかまりながらのハーフスクワット』を紹介しましょう」

1、固定されたイス、またはデスクやテーブルなど、腰の高さにあるものを用意する。
2、足は肩幅に広げ、両手をイスに置く。(写真5)

【写真6】 【茂田浩司】

3、ゆっくりとヒザを曲げながら、椅子に腰を掛けるように腰を落としていく。この時、背すじは真っすぐに。
4、ヒザがつま先よりも前に出ないように注意。またヒザとつま先は同じ向きです。
5、床に対して、ヒザの角度をナナメ45度まで曲げる(写真6)。
「この動作をなるべくゆっくりとおこなってください。最初は10まで数えながら少しずつ腰を落とし、次に10数えながら少しずつ腰を上げて元の姿勢に戻します。注意したいのは息を止めないこと。ゆっくりと、大きく息を吸いながらしゃがみ、息を吐きながら元の姿勢に戻ります。この動作を10回。もし余裕があれば、10回を1セットにして、2〜3セットおこなってください」

――正しい姿勢を覚えて、大腰筋を鍛えると「足腰力」はアップしますか。

「確実に効果があると思いますね。私が最初に実演した『正しい歩行フォーム』で歩こうとすると、運動不足で大腰筋の衰えている方は最初は苦しいと思います。ですが、このハーフスクワットを毎日していると、少しずつ歩くことが苦でなくなりますよ」

――しかし、これまで自分の「歩くフォーム」を考えてみたことがありませんでした。

「日本人は姿勢の悪い方、特に猫背の方が多いです。原因は幾つかあるのですが、私がかねてから問題視しているのは『正しい姿勢と、正しい歩行フォームを学ぶ機会がない』ということです。本来は、学校教育の中で子供のうちに学んでおくべきで、そうすれば日本人の『足腰力』は確実にアップしますし、ゆくゆくは健康寿命も延びていくのではないかと私は考えています。というのも、私がセミナーで高齢者の方に『正しい姿勢と、正しい歩行フォーム』をお教えすると、必ず『こんなに楽に歩けるなんて知らなかった!』という声が上がるのです。しかし、70代、80代から始めても遅すぎるということはありませんし、まして30代、40代の方は鍛えれば鍛えるほど『足腰力』はアップします。まず、現在のご自身の『足腰力』をチェックしてみて、衰えているなら今日から鍛えましょう」

(聞き手・撮影:茂田浩司)

「一生歩ける!寝たきりにならないための足腰力」 [PR]

【(C)双葉社】

野呂田秀夫著
発行:株式会社双葉社

 背筋がシャキっと伸びていつまでも若々しい人と、腰が曲がり老け込んでしまっている人がいる。その違いは何だろうか。
 答えは「足腰力」。筋肉は、何もしなければ30代、40代から衰える。早めに今の自分の「足腰力」をチェックして、衰えているなら鍛えたい。
 本書は、各地で「高齢者向け健康セミナー」を開催し「足腰力」の大切さを説き、足腰力アップ方法を指導している著者が『元気良く、一生シャキシャキと歩ける「足腰力」を持つための方法』を公開したもの。
 4人に一人が65歳以上の高齢者という、世界でも類を見ない「超高齢化社会」にあって「どうしたら、生涯、自分のことは自分でできる高齢者になれるか」は国民的なテーマ。そのテーマに取り組んでいる著者が、長年の経験から導き出した「足腰力のチェック方法」や「正しい姿勢と、正しい歩行フォーム」、「足腰力を決める大事な3つの筋肉の鍛え方」「猫背の矯正方法」などを分かりやすく伝授する。
 老後に備えた貯金と同様、将来に備えた“貯筋"を始めましょう。

第1章 背中を丸めて、下を向いて歩く人ばかり
    なぜ日本人の足腰力は弱いのか?

第2章 足腰力の基本は
    「正しい姿勢」と「正しい歩行フォーム」

第3章 あなたはすでに衰えている!?
    足腰力を簡単チェック&トレーニング

第4章 このポイントを知っておけば、
    足腰力はもっともっと伸びる!

第5章 ジム通いも器具もいらない!
    通勤時間や休憩中の足腰力アップ法

指導者プロフィール:野呂田秀夫(のろた・ひでお)

1944年生まれ。秋田県能代市出身。メディカルクロッシングオフィス主宰。理学療法士、柔道整復師。東京警察病院リハビリテーション科室長、顧問を経て現職。またNPO法人格闘メディカル協会会長、財団法人日本スポーツ・芸術サポート財団特別顧問。
長年、総合リハビリテーション分野、スポーツリハビリでの治療ケアに携わり、人体の運動学、痛み、筋力強化の関連研究、特に手技療法や物理療法を用いたテクニックで早期にスポーツ選手を復帰させている。
現在は、足利市の社会福祉法人両崖福祉会特別養護老人ホーム清明苑、松戸市千葉シルバー福祉研究所パークヴィラ陽春館などで定期的に指導を続け、また中高年や高齢者向けの講演やセミナーで「長寿社会を元気に生きるために、筋力トレーニングで筋肉量の減少を防いで『足腰力』を向上させましょう」と呼びかけている。

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著者プロフィール

情報誌の編集ライターを経て96年からフリー。99〜02年『ゴング格闘技』編集ライター。現在はプロレス・格闘技、お笑い、教育、健康、テレビ、政治など幅広く取材。「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」(企画・編集)、「終わりのない歌」(構成)等。「水道橋博士のメルマ旬報」連載中

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