誰からも愛された男、バレロンの引退 類まれなサッカーセンスとくじけない強さ
心身のハンディを跳ね返す天性のセンス
デポルティボ時代、バレロン(右)はディエゴ・トリスタン(左)やマカーイに絶好のアシストを送り続けた 【写真:ロイター/アフロ】
しかし、そんな心身のハンディを跳ね返す、誰にも負けないものをバレロンは持っていた。それが類いまれなサッカーセンスである。トラップやボールタッチ、キックの精度といった技術はもちろん高かったが、それを効率的に使うすべが身に付いていた。高度なテクニックも、いつ、どこで、どう使うかを間違えれば宝の持ち腐れである。誰も見ることができないパスコースを見つけて、浮かせたり芝の上を滑らせたりして、最も有効で受け手に優しいボールを出す。この判断力はもう天性のセンスと呼ぶしかない。
誤解しないでほしいが、バレロンは芸術家肌の選手ではなかった。味方が反応できないようなパスを出して自己満足するようなことも、余計なボールタッチでプレーを飾り立てるようなこともしなかった。「クオリティーはしばしば美しいプレーとか、見栄えするプレーと混同される。私にとってクオリティーとは効率と気品を両立させたもの」という言葉を残している彼にとって、受け手のいないパス、状況打開につながらないタッチは、ミスにしかすぎなかったからだ。
相手の守備陣にとってはサプライズだった“読めないパス”は、バレロンと通じ合えたデポルティボ時代のチームメート、ディエゴ・トリスタンやマカーイにとっては絶好のアシストだった。01−02にディエゴ・トリスタンが、翌02−03にロイ・マカーイが連続得点王に輝いたのはバレロンのおかげである。
「キャリアの中で最も幸福な3年間」に終止符を打つ
デポルティボで今も語り継がれる歴史を生きた選手ではあるが、キャリアは栄光だけに包まれていたわけではなかった 【Getty Images】
ペナルティーエリア内に走り込んで浮いたボールを受け取った若きバレロンは、そのままルーレットをして相手DFをかわした。GKとの距離は約10メートル。アングルはなかったが、ここで9割以上の選手はシュートを打つだろう。が、バレロンは違った。
顔を上げてゴール正面に走り込んで来た選手にパスを出した、と思ったら、その背後に走り込んで来ていたもう1人にグラウンダーのボールを送り込んだのだ。前の選手がおとりになったことで守備のタイミングがずれ、後ろの選手はただ押し込むだけだった。並みの選手はシュートを打つ、プレーを読める選手はアシストを出す。だが、この味方を使った“1人スルー”を演出できるのはバレロンだけである。
クラブ創立100周年のレアル・マドリーを敵地サンティアゴ・ベルナベウで破ってのコパ・デルレイ優勝(01−02)、03−04シーズンのCL準々決勝ミラン戦での大逆転劇(第1戦を1−4で落としたデポルティボが、ホームでの第2戦を4−0で制す)など、デポルティボで今も語り継がれる歴史を生きた選手ではあるが、キャリアは栄光だけに包まれていたわけではなかった。
ラス・パルマス時代とアトレティコ・マドリー時代に1度ずつ、デポルティボ時代に2度と計4度の降格を経験。膝に大けがを負い、06年から08年までの2シーズンを棒に振っている。
だが、そんな逆境でもくじけなかった強さに、最後にサッカーの神がほほ笑んだ。2部にいた古巣ラス・パルマスを昨年昇格させた後、今季の1部残留を置き土産に、「キャリアの中で最も幸福な3年間」に終止符を打つことができたのだった。良き人が良き選手でもあった。神を信じない私だが、バレロンにはふさわしい最後だった。