ストレイトガールもまた異能の女傑だ 引退撤回からの史上初7歳牝馬GI勝利
作戦ズバリ! 馬群を割って真一文字の伸び
作戦がズバリ的中! 馬群を一気に突き抜けて快勝 【スポーツナビ】
「いつも調子が良さそうな雰囲気を出す馬。きょうは自信を持っていたというよりは、ストレイトガールのことを信じて乗りました」
こう答えたのは主戦の、そして殊勲の騎乗を見せた戸崎だ。レッドリヴェールが逃げ、さらにその外から引っ掛かり気味のカフェブリリアントがハナを叩く速い流れの中(前半3F33秒8、半マイル45秒7)、ストレイトガールはスルスルとインに潜り込み、中団よりもやや後方の馬群の中。陣営は内枠を希望していたものの7枠13番となったことで、何パターンも作戦を立ててシミュレートしたというが、それは枠なりに外を回していくのではなく、馬場の内めを突いていくというものだったのだろう。戸崎は作戦の具体的な中身こそ言及しなかったが、「作戦通りに運べたレースだったので、藤原先生に褒めてもらえるかな」と笑顔を見せ、一方の藤原英調教師も「作戦の1つにハマりましたね。最後の直線であんなに前がパカッと開くとは思わなかった」と振り返っている。
そして、その開いたビクトリーロードを、その馬名のごとく真一文字に伸びた加速力は冒頭に前述したとおり。上がり3ハロンはショウナンパンドラの33秒5、ミッキークイーンの33秒6を上回る、メンバー最速タイの33秒4だった。
3度目の香港挑戦はあるか
次の目標は未定ながらも、3度目の香港挑戦を期待したい 【スポーツナビ】
戸崎、藤原英調教師ともに何度もこのフレーズを口にした。競馬サークルで生きている2人だからこそ身にしみて分かる、7歳牝馬がGIを勝つことの難しさ。史上初という言葉が示すとおり、ストレイトガールがこの日に成した勝利は、とてつもない偉業として称えられるべきだ。まして相手に恵まれたわけではなく、G1馬が7頭もそろった現役牝馬最高峰のメンバーで争われたレースだったというところが、さらに価値を高めている。
“牝馬の時代”と言われる近年、ウオッカやダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナのように2000m級以上のカテゴリーだけじゃなく、このスプリント〜マイルの短距離路線においても異能の女傑が誕生していたようだ。
気になる今後のローテーションだが、藤原英調教師は慎重な言い回しで次のように答えている。
「この年齢ですから、とにかくこのヴィクトリアマイルを最大の目標としていました。オーナーにもそう伝えていたので、その先のことはまったく考えていませんでしたね。ですので、またオーナー、スタッフと相談しながら決めていきたい」
常識的に考えれば、次は秋のG1シリーズ、連覇を狙うスプリンターズS、あるいはマイルチャンピオンシップが目標になるか。いや、香港での不本意な負け方で引退撤回を考えたのだとしたら“リベンジ”、つまり3度目の香港挑戦だって可能性は十分に考えられる。一度は引退を決めたベテラン7歳牝馬が、3度目の挑戦でついに香港国際G1制覇なんていう話になれば、それは日本だけじゃなく世界の競馬サークルでだって話題になるだろう。
もちろん、世界の競馬シーンで勝つことはそんな生易しいものではない。だが、トレーナーや主戦騎手らをも驚かせたこの日の鮮烈すぎる勝ちっぷりを振り返るにつけて、そんな超遅咲きのシンデレラストーリーを信じてしまいたくなる。現役続行を決めたのはヴィクトリアマイルを連覇するだけではなく、今度こそ香港で勝つためだ、と。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)