小林誠司が歩み出したレギュラーへの道 動き出した巨人「世代交代」の歯車

鷲田康

菅野(右)の良さを引き出し、4月6日阪神戦、13日ヤクルト戦の完封勝利に貢献した小林誠司 【写真は共同】

「世代交代」――プロ野球の世界では、必ず大きなテーマとして語られる言葉だが、それを実行するためには何が必要なのか?

 まず、絶対的に必要なのは、いうまでもなく世代交代を求めるに価する力のある若手の出現である。さらにそういう選手を「育て上げて次の主軸にする」という球団の強い意志も不可欠だろう。そしてもう一つ……ときには人知も及ばないようなアクシデントもまた、期待の若手が主力に取って代わるためのきっかけとしては必要なのかもしれない。

 巨人の小林誠司は、次代を担う候補としてドラフト1位で入ってきた捕手である。ただ、この小林がレギュラーを手にするためには立ちはだかる巨大な壁があった。

 阿部慎之助という壁である。

 捕手としてだけではなく、何せこの10年間の巨人を支えてきた中心選手であり、チームの顔でもある。その阿部を乗り越え、世代交代の歯車を動かすというのは、想像以上に生易しいものではなかった。昨年は阿部の一塁コンバートでその機が訪れたかに見えたが、小林の方の準備ができていなかった。要は力不足だったのである。

 そして今季の開幕直前に、今度はもしかしたら歯車を動かすきっかけになるかもしれないアクシデントが起こった。

 ご存知のように今季は高橋由伸新監督の誕生を機に、阿部が捕手として再スタートを切る決断を下した。しかし、開幕を目前にして右肩の違和感から2軍落ち。その結果、阿部が元気なら、当然、スタートから被るはずのマスクが小林に回ってきたわけである。

 このチャンスに小林がどういう姿を見せるか? 逆の言い方をすれば、小林がこのアクシデントをどう踏み台にできるのか? 小林が阿部にとって代わる資質と運を持っているなら、まさに絶好のチャンスが巡ってきたことになる。

 その答えが、ここまでの小林の姿というわけである。

開幕戦は攻守で活躍しスタートダッシュに成功

 開幕の東京ヤクルト戦ではエースの菅野智之とのコンビでヤクルト打線を7回まで無失点に抑え、さらに自らの適時二塁打で勝負を決める活躍を見せた。その勢いを買ってチームはヤクルト3連戦を3連勝。阿部不在を感じさせない好スタートを切ると、その後も首位争いを演じている。その陰で小林もチームの守備の要として、その役割をきっちり果たしていると言ってもいいだろう。

「去年は僕の側に、ちょっと悪い部分もあったんです」
 同じ歳の女房役について聞くとエースの菅野はこんなことを言う。

「去年は僕が肉体的に不安な部分があって、あまり内角球を思い切って使わないでくれと彼に言っていたんです。だからすごく狭い幅でリードをしなければならなかった部分があったと思うんです」

 昨年の菅野はヒジの不安を抱えていたため、ボールそのものに本来の力強さがなく、その分、内角球への確信がなかった。勝負球として内角を思い切って使うことへのためらいがあったから、女房役の小林にこういう組み立てを求めたのだという。

 だが、肉体的にも万全に迎えた今季は、自分の全てをさらけ出して、打者と対決できる。小林も何の気兼ねもなく、菅野の良さを生かした配球を求められるようになった。

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著者プロフィール

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。91年オフから巨人キャップとして93年の長嶋監督復帰、松井秀喜の入団などを取材。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、雑誌、新聞で活躍。著書に『ホームラン術』『松井秀喜の言葉』『10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦』『長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14』などがある。

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