最悪のタイミングで生じたバルサの崩壊 世界最高レベルのチームが苛まれた不安

先が見えないがゆえに面白いフットボールの魅力

主要タイトル無冠に終わる可能性も。ルイス・エンリケ監督はチームを立て直すことができるのか 【Getty Images】

 確かなのは、あれほど順調に勝利を重ね、すさまじい得点力を誇っていたバルセロナが、20日も経たないうちに不安に包まれ、プレーの構築に行き詰まり、ルイス・スアレスを出場停止で欠いたレアル・ソシエダ戦のように主力選手が1人欠けるだけで問題を抱えるチームに変ぼうしてしまったことだ。

 スアレスの不在が響いたレアル・ソシエダ戦では、彼以外にセンターFWの役割が務まる代役がいないことが、あらためて浮き彫りとなった。ムニル・エルハダディやサンドロ・ラミレスは先発メンバーのレベルには遠く及ばない。中盤ではイニエスタへの依存度が高まっており、復帰したてのラフィーニャはまだ他のMFほど重要な役割を果たすことができていない。

 またこの数試合では、本コラムで以前から指摘していたことがあらためて浮き彫りになった。それはいくつものタイトルや個人賞を手にした今も、ルイス・エンリケはこれほど多くのスター選手がそろったチームが必要とするレベルの監督ではないということだ。

 実際のところ、これまでルイス・エンリケの采配によって、才能が引き出された選手は1人もいない。彼が成功したのは昨年1月にアノエタのロッカールームでメッシと衝突して以降、関係が悪化していたクラック(名手)たちに対する手綱を緩めることで、チームをうまく扱えるようになったことだけだ。

 監督にとってグループマネジメントが最大の難題であることは確かだ。ジョセップ・グアルディオラも以前、それが原因で時間の経過とともに消耗していったことを明かしている。

 だが問題はフットボールの内容にある。スアレスが不在、ネイマールも数試合前から低調なパフォーマンスが続いている状況で、メッシを低い位置でプレーさせたのは良いアイデアではなかった。また現時点では期待されていたほどチームに適応できていないアルダ・トゥランの先発起用も失敗に終わった。そしてアトレティコ・マドリーとのセカンドレグでは3トップが抑え込まれた際、ピケを前線に上げること以外に打開策となる「プランB」を提示できなかった。

 最悪のタイミングで生じた突然の不調により、バルセロナは2年連続の3冠獲得の可能性を失っただけでなく、一転して主要タイトル無冠に終わる危険性にさらされることになった。当人たちには悪いが、この2週間で起きた急変ぶりは、先が見えないがゆえに面白いフットボールの魅力を、あらためてわれわれに示してくれたと言えよう。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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