息子の帯同制限でラローシュが突然引退 MLBに根差す家族を大切にする伝統

菊地慶剛

家族に対する手厚い対応

ラローシュはメジャー12年間で通算1452安打、255本塁打をマークした強打者 【Getty Images】

 メジャーにおける選手とその家族に対するいたわりは息子だけに留まらない。各球場にはほぼすべて家族の控え場所が設置されており、家族は試合観戦もできるし、試合後は皆で一緒に帰宅もできる。

 さらに父の日などのイベントがあると、試合前のグラウンドを選手と家族に開放し、家族団らんの時間を設ける。中にはチーム専属カメラマンが家族写真を撮影してくれるサービスもしてくれる。

 また、ほぼすべてのチーム(確認がとれていないので“ほぼ”をつけたが、これまでの取材経験上全チームといっていい)が、シーズン中に“ファミリー・トリップ”と称し、選手のみならずコーチ、球団スタッフも含め、家族を同伴できる遠征シリーズを設定している。もちろん家族も一緒にチャーター機に乗って移動でき、選手と同じ部屋に宿泊もできるというものだ。

 もちろんこれらの計らいは、日本でそのまま受け入れられるようなものではないし、中には違和感を抱く人もいることだろう。しかし“仕事よりも家族が優先”というのが通念の米国社会では、至極当然のことなのだ。

 だがそんな米国社会でも、ラローシュの決断について意見が賛否二つに割れているのが実情だ。メジャーと現実社会では職場環境に大きな隔たりがある。やはり職場に毎日家族を連れてくるというのは一般社会人には受け入れられない行為だろうし、同感を得られ難いのは仕方ないことだろう。

今回は「ミスコミュニケーション」が原因

 そこで改めてラローシュの件について考察してみたい。

 実はラローシュは引退表明後に声明を発表しているだが、彼の主な主張点は大きく3つある。

(1)昨年オフにホワイトソックスと2年契約を結んだ際に、ドレイク君のクラブハウス同伴について許可を得ている。
(2)ドレイク君がクラブハウス内で選手の邪魔になるような不満やクレームを聞いたことがない。
(3)ウィリアムズ上席副社長から今シーズンは“一度たりとも”クラブハウスに連れて来ないようにと通達された。

 もちろんこれが事実なら、ラローシュでなくても憤慨するだろう。チームの新たな規則として全選手が息子を同伴できないというならまだしも(これも選手たちから反感を買うだろうが)、自分の息子だけ許可されないとなれば、怒らない選手はいないだろう。

 だがウィリアムズ上席副社長がメディアにした説明はラローシュの主張とは微妙に食い違っているのだ。ドレイク君がクラブハウス内で選手の邪魔になったことはないとしたうえで、以下のように話している。

「もう二度とクラブハウスに連れてこないで欲しいなどとは話していない。昨年100(パーセントの同伴)だったのを、50でも多いくらいなので0から50の間くらいにしてほしいと説明したつもりだ」

 後に今回の騒動についてホワイトソックスのジェリー・ラインズドルフ・オーナーが「ミスコミュニケーション」だと判断しているように、単純な行き違いの結果だと思われる。その証拠に一時はオープン戦をボイコットするまで主張していた選手もいたが、その後静観の構えを見せているし、選手会も今回の件についてなんの行動も起こしていない。

 家族を一番に思う気持ちはメジャー選手皆同じだ。だからこそラローシュが引退表明後に多くの選手が彼の支持を口にした。だがラローシュのように毎日のように息子をクラブハウスに連れて行きたいかとなると、話は別だろう。

 ラローシュの一件が起きたからといって、メジャー球界の古き良き伝統に問題があったとは誰も考えてはいない。選手たちは自分たちの中でしっかり“節度”を持ちながら、これからも伝統を受け継いでいくことだろう。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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