ACL出場クラブへの多岐にわたる支援 Jリーグがアジアを勝ちにいく意義

川端暁彦

中国の経済規模は日本を凌駕しつつあるが……

中西常務理事は「金だけで決まるわけではない」と「戦力」以外の部分に突破口があることを強調した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 ただ、成長していく市場の中で存在感を出すのは言うほど簡単ではない。そもそも、日本のACLにおける成績降下とリンクしているのは、中国市場の成長にほかならない。今季開幕前に補強で費やした金額は英国のプレミアリーグに匹敵、あるいは上回るとすら言われており、経済的な規模感はJリーグとまるで違ってきている。「監督の顔ぶれも選手の顔ぶれも、ワールドクラスがそろっている」(中西常務理事)ようになった中国勢が、戦力的に日本勢を凌駕(りょうが)しつつあるのは否定しがたい。かつての日本勢は韓国勢に敗れてACL制覇の夢を絶たれることが多かったが(近年もグループステージにおいては彼らに苦戦しているのだが)、「最近は中国……というか、広州恒大に決勝トーナメントで敗れる流れができてしまっている」(同常務理事)という現状だ。

「フットボールの世界では資金で戦力が決まる面はある」のは確かだが、「金だけで決まるわけではない。もしそうなら、CL上位はプレミアリーグ勢ばかりになるはずだけれど、現実はそうなっていない」(同常務理事)。先日のAFC・U−23選手権(リオ五輪アジア最終予選)がそうだったように、サッカーという競技の特質を含めて、「戦力」以外の部分に突破口はある。

クラブの財政的負荷は大幅に減少

 Jリーグの西尾明宏氏は「日本サッカー協会(JFA)とも提携した『ACLサポートプロジェクト』を実施し、日程、財政、人、そしてプロモーションの4項目から出場クラブを支援する形を採っています」と説明する。具体的には、「できるだけACLまで中3日を確保する」という原則を維持しながらリーグ戦の日程を融通する。当然ながら出場チームの独断で日程は動かせないので、相手チームとの折衝に関してもJリーグとして関わっていくことになる。

 また、広大なアジアを股に掛けるゆえに財政面の負担がクラブにとって重くのしかかってきていたが(それゆえにACL出場を『罰ゲーム』などとやゆする声もあった)、現在は「グループステージにおける渡航費は実費の80パーセントを、ノックアウトステージ(決勝トーナメント)からは50パーセントをJリーグが負担させていただいています」(西尾氏)。またJFAからは勝利給と強化費が各クラブに支給されており、戦績に応じて支払われる形となる。今年からACLの賞金が倍になったことを含め、出場すること自体に財政的な負荷があった時代からは様変わりした。

 他にも国際試合ゆえに難易度や求められる水準も変わるホームゲームにおける運営面の支援や、スカウティング映像の提供、現地の領事館や大使館との折衝などもサポートする体制ができあがった。

ワールドクラスの選手が出場する大会の価値

 もう一つは、ACLの価値自体を高めるプロモーションの施策だが、「こちらはまだまだ課題も多い」と中西常務理事も認める。平日開催ゆえの難しさもあれば、映像使用に関する厳格さも大きな壁となっていると言う。今年は「広島なら広島。大阪なら大阪へのローカルな露出を増やす」(中西常務理事)ための施策を実施し、まずスタジアムへ足を運ぶ人の絶対数を増やす施策を重んじていく考えだ。

 ただ、「中国にワールドクラスの選手がいることで、彼らとACLという舞台で戦えるというのは日本の選手にとって大きな財産になる。そういう視点が持てれば」と中西常務理事が言うように、大会の話題性に関してはポテンシャルもあるのは確かで、「決勝まで行けば地上波放送もあるし、そこで優勝すればまた変わる」というJリーグ側の見立ては、あながち単なる楽観論でもあるまい。

 日本経済が奇跡的に立ち直るといった環境変化でもない限り、Jリーグ勢が戦力的に他国を圧倒するような時代は来ないだろう。まさに「アジアで勝つのが難しくなった時代」(霜田正浩JFA技術委員長)が来ているのは間違いない。ただ、大きく市場が膨らみ、富と人材が集まりつつあるACLは、Jリーグが未来に向けて発展していくためのチャンスが詰まった場になってきたのも確かだ。浦和とG大阪の戴冠から「空白の7年」を経て迎える今季が、後世において「Jリーグのアジア戦略における新たなムーブメントの始まりだった」と記憶されるシーズンになることを期待したい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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