アメリカズカップへ思いを馳せる新戦力 五輪の夢破れた2人の未知なる挑戦

中山智

順位アップの鍵を握る存在

アメリカズカップに挑戦しているソフトバンク・チーム・ジャパン 【中山智】

 大西洋に浮かぶ周囲34キロほどの小さなバミューダ島。ここで、世界を舞台に戦う挑戦権を得た2人の日本人がトレーニングに励んでいる。

 ヨットレースの最高峰「アメリカズカップ」に日本から挑戦しているソフトバンク・チーム・ジャパンのクルー(乗組員)として新たに加わった吉田雄悟と笠谷勇希の2人だ。

 アメリカズカップは現在、2017年の本大会に向けて、予選シリーズの「アメリカズカップ・ワールドシリーズ」を開催している。

 第3戦の終了時点でソフトバンク・チーム・ジャパンは6チーム中5位という成績。とはいえ2016年のワールドシリーズは、全5〜6戦の開催を予定しており、まだまだ順位アップのチャンスは十分にある。

 そこで重要なポイントとなるのが新戦力だ。今年は昨年よりもレース数が増え、クルー(乗組員)にとって、よりハードなシーズンとなる。さらに、本大会で使用されるレース艇はワールドシリーズとは異なり、乗艇人数も5人から6人と増える。これまでレースクルーをギリギリの人数で戦ってきたソフトバンク・チーム・ジャパンにとって、優秀なクルーの育成は必要不可欠といえる。

 その注目される新戦力が、昨年11月末に行われた選考会に合格した吉田と笠谷だ。

五輪を目指していた吉田と笠谷

クルーとして新たにチームに加わった吉田雄悟(右)と笠谷勇希 【写真は共同】

 吉田は高校からヨット競技のキャリアをスタートし、法政大学に進学。卒業後に五輪への出場を目指し、12年のロンドン五輪に470クラスの日本代表として出場した、日本でもトップクラスのセーラーだ。しかし吉田は「ロンドンでは思っていた成績が残せなかった(18位)」と、16年のリオデジャネイロ五輪を目指してトレーニングを続けていた。

 五輪の選考レースでは好調で、最終日の前日まで選考対象チームとしてはトップに立っていた。「最終選考の前日までリオには絶対に行ける」と思っていた吉田だが、レース最終日に土居一斗、今村公彦チームに逆転され、リオ五輪の出場権を逃してしまった。

 レース終了後、吉田はつかみかけていた五輪の切符を失ってしまい、「何も手に付かない状態」にまで落ち込んでいたという。そんなときに彼が目にしたのが、ソフトバンク・チーム・ジャパンのクルー募集だ。同じセーリング競技ながら、五輪という世界から、アメリカズカップという世界に舞台を変えて戦うことを選んだ。

 笠谷も競技は違うが、吉田と同じく五輪を目指していたアスリートだ。笠原は一橋大学でボート部に入部。高校までは帰宅部だった笠谷だが、全日本選手権への出場などボート競技での実力を伸ばした。在学中に開催されたロンドン五輪の出場はかなわなかったものの、日本代表の最終選考まで残るほどに成長した。

 大学卒業後はリオ五輪を目指し、社会人として仕事をしながら自分でチームを作ってトレーニングを続けていた。しかし「自分で作ったチームだけに、実業団などと比べて環境面で厳しかった」と、リオ五輪の選考から漏れてしまう結果となった。

 その後、20年の東京五輪を目指すかどうか悩んでいた時期に、吉田と同じくソフトバンク・チーム・ジャパンのクルー募集の情報を得る。笠谷は「ヨット競技はまったくなじみがなかったのですが、世界を舞台に戦える」ことに魅力を感じ、応募したという。

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著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

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