アメリカズカップへ思いを馳せる新戦力 五輪の夢破れた2人の未知なる挑戦

中山智

両者から感じられた強い意志

 新戦力となった吉田と笠谷の2人。キャリアから言えばセーリング経験のある吉田のほうが有能なように思えるが、その限りではない。実際クルー選考会には吉田以外にもセーリング経験者が多数参加していた。

 そんななかで笠谷が選ばれた理由として、本人は「アメリカズカップのクルーとして求められるのは、体力的にハイレベルの強度を長期間維持できるかというところにあり、そういう点ではボート競技に近い」と語っている。

選考会でもボート競技用のトレーニング機材を用いてテストが行われた 【中山智】

 アメリカズカップで使用する艇は、複数人がクルーとして乗艇するが、乗組員それぞれに役割が決まっている。舵を取ってレース中のコースを考え、艇を動かすのは、スキッパー(艇長)やヘルムスマン(操舵担当)が行う。ほかのクルーはその指示のもと、セールのコントロールなどのいわゆる力仕事を担当する。

 一方の吉田も、「行き着くところはヨットということで同じですが、これまで乗っていた艇とはスピードも違うので、自分をきっちりとアメリカズカップの艇のやり方にシフトしていく必要がある」としている。

 今回2人が合格したのは、「グラインダー」(編注:ウインチと呼ばれる巻取り機を使いシートを引き込む)というポジション。これは吉田が今まで経験した艇にはないポジションだ。「まずはちゃんとトレーニングをしてグラインダーとして仕事ができるようになりたい。それができなければ、今までのキャリアは関係なく捨てられてしまうと思っている」と、自分を厳しく見ている。

陸上ではグラインダー用のマシンを使ってトレーニングを行う 【中山智】

 両名ともにリオ五輪への出場は果たせなかったが、吉田は「チームに参加した以上、カップを目指してやれることはすべてやっていく」と語り、笠谷も「チームが勝てるように、自分として何ができるのか考えて一歩一歩進んでいきたい」と意気込むなど、アメリカズカップという「世界」を舞台に、チームとして勝利に貢献したいという強い意志が感じられた。

 これまでは早福和彦総監督以外は外国人クルーで構成されていたソフトバンク・チーム・ジャパンだが、待望の日本人クルーが加わったこともあり、今後はチームの成績だけでなく、彼ら2人の活躍にも期待していきたい。

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著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

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