財政と戦力の問題を解消する千葉の大変革 J1昇格へ集まった強い意志を持つ男たち

赤沼圭子

痛い流出もあるが、関塚監督の願いどおりの選手を獲得

水野らの流出は痛手だが、関塚監督の願いどおりの選手を獲得して戦力を整えた 【写真:アフロスポーツ】

 その一方で、関塚監督の今季の構想に入っていたにもかかわらず流出を止められなかったのが、DFの大岩一貴(ベガルタ仙台)とキム・ヒョヌン(アビスパ福岡)、攻撃的MFの水野晃樹(仙台)だ。それぞれ流出に至った事情は異なるが、昨季の開幕当初にセンターバック(CB)のスタメンだった大岩とキムの流出は痛手だ。

 とはいえCBには、若狭大志や多々良敦斗というサイドバック(SB)での活躍も目立つ選手に加え、近藤直也や大久保裕樹といったベテラン、イ・ジュヨンのような伸び盛りの選手を補強。彼らはいずれも移籍金なしで獲得した。早くからオファーされていた若狭は「4バックのどこでも出られるように準備をしていてほしい」と言われたという。在籍していた大分トリニータのJ3降格により、悩んだ末の移籍となった若狭だが、もう一度J2で活躍してその先へというレベルアップに対する強い向上心が決断を後押しした。

 さらに、14年から2シーズン千葉に在籍し、チームのストロングポイントとなっていた左SBの中村太亮(ジュビロ磐田)が抜けた穴は、J1でのプレー経験が豊富で精度の高いキックが持ち味の阿部翔平で埋めた。

 千葉の監督就任時から関塚監督が目指すのは「攻守にアグレッシブで主導権を握り、ダイレクトにゴールへ向かうというアクションを起こすサッカー」であり、より高い位置でボールを奪って素早くシュートまで持ち込むのが理想だ。前線からのプレスという点では、自分の特長の一つに「守備も頑張れるところ」と話した船山、運動量豊富で攻守両面で体が張れる吉田眞紀人は、関塚監督の願い通りの選手といえる。また、速くダイレクトにゴールへ向かうという点では、相手の裏を取るのがうまい船山や小池純輝が加入し、パスの出し手としてはアランダや長澤に加え、山本真希、ロングフィードのうまさを持つ若狭や大久保という新戦力が加わった。

 昨季の千葉はカウンター攻撃のチャンスでゴールを奪えない場面が目立ったが、パスの出し手や受け手としてうまくプレーできる選手が増えた。「1つのポジションに力のある選手を2人置いて競争力を高める」という狙いの選手補強で、昨季はスタメンでの起用が多かった佐藤勇人や井出遥也にも厳しいポジション争いが待っている。

守備の鍵を握るGK佐藤優也

新しい刺激を求めて加入した守護神の佐藤優也は、キャプテンとしても重責を担う 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 また、J1昇格には失点減少も必要不可欠となる。守備陣のけん引役として期待されるのがGKの佐藤優也だ。佐藤優はセービングがうまく、絶え間ない的確なコーチングでディフェンスラインを統率。昨季まで在籍した東京ヴェルディでは正守護神として「自分のポジションは確かにあった」が、「もう一度新しい刺激を受けて他の選手とまた切磋琢磨(せっさたくま)して、もう一度自分がそのポジションを取るというチャレンジをしに来た」という。

 今季は関塚監督から「キャプテンと副キャプテンは選手みんなで決めるように」というお達しがあり、選ばれたのがリーダーシップを感じさせる言動を見せる佐藤優だった。昨季は試合運びの拙さから終盤の失点で勝ち点を落とすことが多かったが、キャプテンは初という彼が後方からチームをうまくコントロールできるかどうかは今季の重要なポイントだ。

 戦力値だけでなく財政面を考慮しながら生まれ変わった新チームは、ニューイヤーカップで熊本に2−1、福岡に5−1、鹿島に1−0と全勝で優勝を果たした。新戦力が多く、チーム戦術の浸透や選手の連係面がまだまだの状況下での優勝は、もちろん好材料には違いない。

 だが、3チームとも千葉のボールを奪いに前へ出る戦いをしたこともあり、ゴール前にはスペースがあった。J2での千葉はこれまで、激しいプレスをかわして攻撃を組み立てることはもちろん、使いたいスペースを消された際に相手の守備を崩すのにも苦戦してきた。ゴール前をがっちりと固める相手からゴールを奪えるか。積年の問題点を解消してJ1昇格を達成しなければ、今季の大変革は成功したとは言えないだろう。

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著者プロフィール

1992年7月にサッカー雑誌『J’LEV(ジェイレブ)』の編集部記者としてサッカー取材をスタート。96年から市原(当時)のオフィシャルイヤーブックに携わり、以降は千葉をメインに取材活動を行う。クラブのオフィシャルプログラム『UNITED』をはじめ、『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカー・マガジン』『サッカーai』『Footival』『J‘sGOAL』などに寄稿。02年からJリーグ登録フリーランス。15年3月から有料webマガジン『ジェフ便り』を発行中。

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