「控えの一番手」となっている酒井高徳 後半戦開幕のバイエルン戦ベンチの意味
控えの一番手になっている現状
ディークマイアーは、いわば矢のような選手だ。果敢に攻めて、危険なクロスを供給する。さらには守備面でも大きく成長した。オストルツォレクは守備力を持ち味とする選手ではあるが、攻撃面でも日本代表DFを上回るようになっていた。
「酒井は本物の猛牛だ」と、考える記者もいる。スポーツ専門チャンネル『スカイスポーツ』のユレク・ロールベルクだ。現状を見据えつつ、「酒井はディークマイアーよりも上であるはずだが、オストルツォレクは左利きであることが出場機会を得ている理由ではないだろうか」と説く。
酒井が11月に出場機会を得た理由は、ディークマイアーがじん帯を痛めたためだった。チャンスを得た酒井は、二番手としての役目をしっかり果たしたと言える。ディークマイアーも「ゴウはよくやってくれた」とライバルを称賛した。だが、それがここまでにおいて、酒井が残した最後の印象となっている。シーズン後半戦となったバイエルン戦の先発メンバー表に、背番号24は記されていなかった。それが酒井の現状だ。
「酒井はHSVで、2つの世界のはざまを歩いている」と評するのは、ブフハイスターだ。「彼は2つのポジションでの、控えの一番手となっているんだ」
ウインターブレイクの後、トルコのベレクで行われたキャンプで酒井はさらに別のポジションでもテストされた。守備的MFが負傷したために、ラッバディア監督はルイス・ホルトビーと並ぶ「背番号6」として、中盤の底で酒井を試したのだ。
「酒井は控え以上の存在にはなっていない」とシラーは語る。その位置にくるのはゴイコ・カチャルであり、酒井はそこでも控えの一番手にしかならない。
それでも酒井は「クラブにとって非常に重要な存在」なのだとヨバノフは語る。「彼のほかにはブンデスリーガの経験が豊富なSBはいない」(ヨバノフ)というHSVにおいて、酒井は常に選択肢を与えてくれる存在なのだ。2人の子供の父親である酒井にとって、今は忍耐が必要な時間であり、HSVが再びどう変化していくか見守らなければならない。
厳しい立場にあるHSV
ブフハイスターは「あと2勝もすれば、またUEFAヨーロッパリーグ出場権獲得の可能性も見えてくるかもしれない」と言うが、クラブでそのようなことを口にする人間はいないとも付け加える。非常に力が拮抗(きっこう)しているのがブンデスリーガであり、だからこそドイツのクラブは気を抜くことなどできないのだ。
特に現状は「極めて難しいところだ」とロールベルクは話す。問題は選手層がとても薄いということだ。「最終ラインの両サイド、守備的MF、さらに攻撃的MFと、状況がどうなるかは予断を許さない」とシラーは話す。
彼の評価は「残留争いに巻き込まれなければ、HSVとしては上々のシーズンとなるだろう」というものだ。ヨバノフも同じ見方をしている。「ベレクでの親善試合で見せたパフォーマンスは、懸念を抱かせるものだった。ブンデスリーガでHSVがこの調子だったら、よろしくないことになる」ラッバディア監督は今、手の打ちようがないと考えているかもしれない。
シーズン後半戦の出だしが、非常に大きな意味を持つとロールベルクは予想する。そして、その第一歩でバイエルン相手につまずいた。
ただし、思い出しておくべきことがある。最も重要なのは、シーズンが終わった時にどこにいるかということだ。最新の記憶こそが、人々の思いを左右する。果たして今季が終わった時、HSVと酒井はどこにいるのか。未来へつながる“その時”のために、酒井は今も現実を生き続けている。
(翻訳:杉山孝)