ターンオーバーの賭けに勝った手倉森監督 「技勝負」のタイに理想的な展開で完勝

川端暁彦

しのぐ予定の前半に先制ゴール

しのぐ予定だった前半に鈴木(左)のゴールで先制に成功。ゲームをコントロールした 【Getty Images】

 結論を先に言ってしまうと、不安が的中した面はある。序盤からDF奈良竜樹(川崎)、亀川諒史(アビスパ福岡)といった初出場の選手たちが不安定なプレーを見せてしまい、危険なシーンも作られた。少しの運がなければ、早々に失点していた可能性もある。だが、指揮官は1失点くらいまでは想定していたのかもしれない。

「タイが(サウジアラビアとの)一戦目にものすごくパワーを使っていて、それを見て(メンバーを)入れ替える決断をした。前半をしのげば後半なんとかなるだろうという予想だった」

 タイが後半に体力的に落ちるという計算をしつつ、日本側は第1戦で体力的に消耗の激しかった選手を外してフレッシュな選手を投入。ばくちに見える決断は、しかし戦略的な裏付けのある判断だった。全体に第1戦よりも個人としての守備力に長じた選手が並んでいたのも、「前半をしのげば」という発想があったからだろう。

 その意味で言えば、前半の結果は想定以上。4分、6分、8分、9分と立て続けに生まれた決定機を相手GKの好守とゴールバー&ポストに阻まれてしまう伝統の決定力不足を見せてしまったとはいえ、27分にはMF遠藤航(浦和レッズ)のフィードを受けたFW鈴木武蔵(アルビレックス新潟)が鮮烈なシュートをたたき込んで先制点を奪い取った。その後は先制直後から相手に合わせてしまった北朝鮮戦とは異なり、「バタバタせず、ゲームをコントロールできた」(原川)。慌てて攻めることなく、しっかりとパスをつないでリズムを作り、いわゆる「自分たちのサッカー」の土俵でプレーを続けた。焦りを見せていたのは、専らタイのほうだった。日本はハーフタイムで殊勲の先制弾を決めた鈴木を「温存」する余裕まで見せる。

「してやったり」の手倉森監督

ターンオーバーの賭けに勝った手倉森監督(左)は、「してやったり」の表情を浮かべていた 【Getty Images】

 後半に入っても流れは変わらない。4分にはクロスボールが流れたところを拾った原川が左サイドを破って折り返し、これを矢島が頭でたたき込む形で早くも追加点を奪い取る。この直後にタイにPKを与えてしまって相手のシュートミスに救われたのは第2戦における最大級の反省ポイントだったが、直後のコーナーキックからの決定機をGK櫛引政敏(鹿島)が阻んだところでタイの勝機は消えた。30分にはDF岩波拓也(ヴィッセル神戸)のスルーパスから久保が追加点を奪い、さらに39分にも久保がPKを決めて、4−0。まさに完勝と言っていい流れで、連勝を飾った。

 サウジアラビアと北朝鮮の裏カードが3−3の引き分けに終わったことで、日本は第3戦(対サウジアラビア)を待たずに決勝トーナメント進出の権利を確保。グループリーグ最終戦は、「さらにフレッシュな選手で回していける」(手倉森監督)状況を作ることに成功した。賭けに勝った指揮官は「してやったり」の表情を浮かべていたが、確かにそれも納得の理想的な試合展開だった。

 もっとも、タイのような「技勝負」の分かりやすいチームとの試合はこの大会でもう2度とない可能性が高い。決勝トーナメントで待っているのは、タイのようなピュアに「サッカー」をしてくるチームではなく、「戦い」を挑んでくるアジアの猛者たち。油断できる状況になったわけでは決してない。わずか3枚のリオ五輪切符を手にするまで、若きサムライたちが安堵(あんど)のため息をつくことは許されていない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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