指導者不在から全国へたどり着いた鳴門 “香留ファミリー”の諦めない気持ち

中田徹

鳴門の育成を取り巻く厳しい環境

 徳島商を1996年度の高校選手権でベスト4に導いたこともある“名将”は、鳴門の誇りをこう語る。

「私学のように、生徒をどこからも取ることができるわけでもなく、県立高校として教育委員会や学校に『人工芝のグラウンドを作れ』とも言えません。ないものねだりをしたら、きりがない。今大会の学校紹介のビデオを見ても、きれいなピッチの学校が多い中、うちは土の凸凹のピッチ。それは公立高校の宿命というか、甘えてはいけない。Jリーグを目指す選手は少ないけれど、これでもええじゃないかと思ってます。勉強もちょっと頑張っている。高校生らしさというか、いいことはいい」

 少子高齢化の波は、鳴門の町も襲っている。

「鳴門市は人口6万強しかおらん上に、減ってきている。小学校はまだ廃校になってないが、クラスが減ってきている。林崎小学校と里浦小学校は合同チームを作らないと成り立っていかない。育成を取り巻く鳴門の環境は厳しい。

 僕はもう退職したのでキッチリ言えないんですけれど、“鳴門のクラブチーム化”を進めることは1つの案でしょうか。鳴門には、鳴門高校と鳴門渦潮高校の2つがある。『こういうサッカーをする』という音頭を誰かがとって、高校を頂点とするピラミッドを、中学校、小学校と作ってやっていくとか」(香留元監督)

 同じ公立ながら、強化指定校の徳島市立と鳴門渦潮に人工芝があって、鳴門が土なのは何とも納得がいかない。だから腹が立って、教育委員会で「このままじゃ、鳴門は運がないと勝てない」と言ってしまったこともある。熱血漢であり人情家。香留元監督は初対面の記者にも熱い思いの丈を明かし続けてくれた。

 計盛コーチは言う。
「鳴門高校は、“香留ファミリー”と言われるぐらい。香留先生の強い気持ち、たくましさ、諦めないという気持ちで戦ってきたので、ここまで勝てたのだと思います」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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