早稲田はなぜ勝てなくなったのか? 岐路に立つラグビー界の名門

斉藤健仁

「変化しようとしすぎてブレてしまった」

166センチと小柄ながらも、CTBとして体を張り続けた岡田主将 【斉藤健仁】

 CTB岡田一平主将はこう胸の内を吐露した。「(変革が)うまくいかなかったというよりも、変化しようとしすぎてブレてしまった。戦術面でも(藤田)慶和が戻ってきて、いろいろと言ってくれたのですが、彼の意見は正しいですが、すべてできるわけではない」。やはり大学ラグビーは毎年、選手が変わり時間も限られている。そんな中で何に焦点を当てて、どういったラグビーで相手を上回るか。「ボールを大きく動かすラグビー」と「モールを軸にしたラグビー」を同時に追求することは悪くないが、両方の精度を高めることはできなかった。

 最終学年のFB藤田に、大学では日本一になれなかった原因を問うと、最初に「難しいところですね……」としかめ面をして、こう続けた。「早大だけでなく、大学ラグビーは良い伝統も悪い伝統もあります。ただ、最新のラグビーをもっと学ぶことも大切です。また大学は体作りばっかりに特化するチームが多い。大学の中だけは良いかもしれないですが、スキルも同時にやらないといけないし、日本はスキルで上回らないといけない。日本代表がワールドカップで勝てたのは同時進行したからだと思います」

「人材不足」でも工夫で勝つのが早大の伝統

「スキルや状況判断で勝負できるように」と語る2年生SO横山 【斉藤健仁】

 ここまで主に「コーチング」について述べてきたが、「環境」という面では早大ラグビー部は2002年に新グラウンドが完成し、半面だが人工芝のグラウンドやトレーニングルーム、寮もあり、他の大学と比べればいち早く整っていた。最後に「人材」だ。早大が勝てなくなった理由の一つには、有望な選手が集まらなくなったという指摘も半分、当たっているだろう。

 2004年から2009年まではスポーツ科学部の推薦で4〜5名が入部(それ以外の自己推薦の入部は年度による)。また2009年、他の学部の自己推薦も入れればなんと17名が推薦で合格して入部していた。ただ、2010年以降はトップアスリート入試とスポーツ推薦で合計2〜3名と減少した(2016年度は計4名に増加)。

 また昨今の不景気も影響し、寮生活とはいえ、学費が比較的高い東京の私立大入学をためらう選手も出てきたのは事実だ。早大の推薦を蹴って、学費免除となった他大学に進学し、現在トップリーガーとして活躍している選手もいる。また早大の寮は相部屋のため、大学に併設している個室の寮や自分で借り上げたアパートに住むことができる筑波大に進学した有望選手もいた。ただ高校日本代表が集まらなくても、指導や戦い方で工夫しつつ、一般入試で入ってきた選手が中心選手として成長するのが早大の伝統であり、それがファンの心を打ってきたはずだ。

 やはり「人材不足」は言い訳にしてはいけない。2年生のSO横山陽介は、真剣な表情でこう来シーズンを見据えた。「早大は体が小さい選手が多い。留学生や花園で活躍した選手が多いチームにどういうところで勝つか考えたとき、体の大きさで勝つには限界がある。スキルや状況判断で勝負できるようにもっと伸ばしていかないと行けない。来シーズン、部員全員がそういったことを意識したい」

最終戦で何を残すことができるのか

藤田は東海大戦に向けて「リベンジをして良い終わり方をしたい」と闘志を燃やす 【斉藤健仁】

 今シーズン限りで後藤監督が退任することは決定的だ。あるOBが早大が勝てなくなった理由を「大人たちのせいですよ……」と残念がっていた。そろそろ、経験豊かなフルタイムのプロコーチに任せる時が来ているのかもしれない。

 ただ岡田組には12月27日、東海大戦が残っている。「自分たちがやることは試合に勝つこと」と岡田主将が言えば、藤田は「もう負けるのはいやですね。(昨年の)リベンジをして良い終わり方をしたい。このチームがそんなに弱くなかったことを見せたい」と大学最後の戦いに闘志を燃やした。

 4年生が3年生以下に何を残すことができるのか。プレーで、背中で語る重みがあるはずだ。その伝統を感じることが来シーズンへのスタートとなる。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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