八村塁のNCAA進学で期待される未来 最後のウインターカップに懸ける思いとは

小永吉陽子

八村を構成する2つの国の誇りと明成で学んだ基本

八村(左から二人目)の将来を見据えた佐藤コーチ(左)は、ポジションを固定せず、いろいろな可能性を見いだす育成を手掛けた 【小永吉陽子】

 八村がここまで注目を浴びるようになったのはハーフアスリートとして、その能力が規格外だったことは言うまでもない。アフリカのベナン人の父と日本人の母を持つ彼が、自身の生い立ちを話すときに必ず言うことがある。それは「自分は2つ国の良いところを持っているから、ここまでバスケができる体になることができた。ハーフであることが本当にうれしい」という2つの国への誇りと「明成で徹底して基礎を学んだからこそ今の自分がある」という恩師やチームへの感謝の気持ちだ。

 もともと運動神経がよく、小学生の頃は野球と陸上の掛け持ちをしていたが、生まれ育った富山市の奥田中への入学と同時に、友人の誘いによってバスケに転向した。よく由来を聞かれるというが、「塁(ルイ)」という名前は野球のベースの意味ではなく、「国際社会で通用するように」との意味が込められている。

 ウインターカップのメンバーリストには198センチと以前の身長が登録されているが、本人の申告では素足で201センチあり、高校入学当時からは約10センチも身長が伸びている。また体重はトレーニングの成果で、昨年から7〜8キロ増え現在は98キロと体が一回り大きくなった。加えて今夏の測定で215センチものウイングスパンを持ち、驚くべきことに視力は2.0以上もあるという。

 だが佐藤コーチはその高い身体能力と視界良好な視力を持ってしても、「仲間の心のうちや相手の状況が読めないようではバスケは上達しない」と毎日の練習でバトルを繰り広げ、「人間として成長することが米国で通用することにつながる。もっとハングリーになってほしい」と心の成長を訴え続けてきた。また将来を見据えポジションを固定せず、いろいろな可能性を見いだす育成を手掛けた3年間だった。留学生と対峙(たいじ)しても内外角自在な1対1でしのぐパワフルさと柔軟さを持ち併せ、的確な状況判断ができるクレバーさこそが八村の魅力である。

最後の冬に懸ける八村の思い

ベナン人の父と日本人の母を持つ八村は、高い身体能力と視界良好な視力を武器としている 【小永吉陽子】

 八村がNCAAへの道を切り開いたのは、素材や能力の高さだけではないことは、基本を徹底し球際に粘り強い明成の試合を見れば分かるはずだ。米国進出の前にやるべきこと。高校3年間の成果を発揮するウインターカップがやってくる。

 八村率いる明成はウインターカップ優勝の本命に挙げられる。大会3連覇への期待が懸かる中で今年のテーマは、「駆け引きのできる高校生を超えるチーム」(佐藤コーチ)と志は高い。だがインターハイでは優勝したものの、「内容が悪かった」と佐藤コーチのの評価は手厳しいものだった。「勝敗以前に激しく面白いバスケで、人々の胸を打つような内容の高いゲームをしたい」と指揮官は語り、八村自身も「明成で学んだすべてを出したい」と最後の冬に懸ける思いは強い。そして3連覇を目指す明成を倒そうと、勝負の年を迎えたライバルチームが多いことも今年の見どころである。

「世界で経験してきたことを高校最後の大会で出し、将来は日本を引っ張っていく選手になりたい」と口にする八村。高校最後の大会ウインターカップでは、日本を飛び出す八村の決意の先にあるものと、それに負けじと対抗する選手やチームの意地が見たい。そうした盛り上がりこそが日本のバスケ界をレベルアップさせるはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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