投手はTJ手術からいつ復帰すべき? ダルの復帰にも影響及ぼす米国の議論
早期復帰が可能も実力発揮は?
TJ手術経験者では初めて1億ドル以上の契約を得たジマーマン。今季はナショナルズで13勝を挙げたが来季はタイガースでどんな活躍を見せるか? 【写真:Getty Images】
「かつてうちにいたビリー・ワグナーは手術から11カ月と復帰が早かったが、翌年(10年)もブレーブスで37セーブ、防御率1.43。一方でジェレミー・ヘフナーはマット・ハービーの2カ月前、13年8月にトミー・ジョンを受けた後、14年10月に再手術となった」
メッツには25歳で、将来を嘱望される先発投手ザック・ウィーラーがいる。15年3月、ダルビッシュ有とほぼ同じ時期に手術を受けたが、じん帯だけでなく腱も痛めていたため、より時間をかける。
「来年夏と思ってはいるけど、具体的にいつとは明言できない。一番避けなければならないのは再発だから」
約5年前、技術の進歩により、早期復帰が可能になったと球界で話題になっていたのを思い出す。07〜08年のジョシュ・ジョンソンは342日、09〜10年のエディンソン・ボルケスは348日、11〜12年の松坂大輔は364日で戻った。
しかし今、ジョンソンは3度目の手術を受け、ボルケスは11年シーズンすべてでマイナーでの修正に追われた。松坂は「戻るのが早過ぎた。本当にヒジの具合が良いと実感できたのは今年(14年シーズン)だった」と昨年悔やんでいた。
ライアン・マドソンのようなケースもある。12年キャンプ中に手術、リハビリも順調だったが、90マイル台を投げようとすると痛みが出る。フォームを作り直し、工夫を積み重ね、メジャーに戻るまでに3年を要した。やはりhowとwhenはその投手によって違うのである。
スモルツ氏は数字偏重に警告
「MLBは投手を正しく育成していない。このままだとTJを受けて殿堂に入れるのは自分が最後かもしれない」と警告する。
彼が嘆くのは数字偏重だ。まず球界全体が球速のとりこになっていて、トレーニングもいかに平均速度を上げるかにこだわる。その上で「投手の肩は消耗品」と、球数制限に躍起。マイナーでは75球から90球で降板させる。真っすぐを力いっぱい投げ、早い回で降板の繰り返し。これでどうやって投球術を学ぶのか?
彼のチームメート、グレッグ・マダックスはマイナーで19試合も完投し、投球術を磨き、メジャーでは通算5008イニングを投げている。今の育成方法や、リハビリ方法を行っている間は、マダックスのような投手は出てこないというだ。
来季ダルビッシュの復帰は、そのタイミング、復帰してからの登板間隔、イニング数など、いろんな議論を呼ぶだろう。周囲の騒ぎをよそに、研究熱心な彼が、彼なりの取り組みの成果をあげ、TJ経験者に新たな境地を開くことができるのか。長期的に見れば殿堂も視野に入るほどのキャリアをと期待している。
(文:奥田秀樹)