これだけ強いモーリスならば、海外でも十分に通用するだろうと思うのは当然であり、それが事実だ。しかし、今回の香港マイルにはモーリスの世界制覇の野望の前に大きく立ちはだかる馬が待ち構えている。それは昨年の香港マイルの覇者であり、地元香港で絶大な人気を誇るエイブルフレンドだ。

　エイブルフレンドのこれまでの成績は２１戦１３勝とまずまずの内容に思えるが、それは昨秋まで。昨年末からは素質が一気に開花して他馬を寄せ付けずに６連勝。その中でも圧巻だったのが香港マイルだ。香港のマイル戦はコース形態から外枠は不利とされ、１０頭立てとは言え大外枠を引いてしまったエイブルフレンドは厳しいレースを強いられるとの下馬評だった。ところが、レースでは枠順の有利不利など関係ないと言わんばかりに強烈なパフォーマンスを披露。道中は後方に待機して直線へ向かうと、馬群を縫うように抜け出して馬場の外へ。そこから一気に加速して先頭に躍り出て後は後続を引き離すのみ。最終的には２着のゴールドファンに４馬身１／４差。フィエロ、グランプリボスといった日本代表を全く寄せ付けない圧勝劇を見せている。エイブルフレンドはこのまま春の大一番・チャンピオンズマイルまで連勝。香港の秋春マイルＧIを制した。まさに香港版のモーリスと言ったところだ。

　今夏に連勝が止まったとは言え、それは初めての英国遠征でのこと。地元に戻ってからは２戦１勝。前走のジョッキークラブスプリントではライバル・ビューティフレイムの前に３着と敗れたが、香港では大一番に照準を合わせて調整するために、ここは７分のデキでの出走。終いもシッカリと伸びていたので特に問題はない。本番へ向けての準備が着々と進められている。

　ここへ日本のマイル王・モーリスが挑むというのだから、世界的に注目される一戦になることは必至だ。奇しくも両馬とも差し・追い込みを得意とするタイプなだけに、道中の位置取りも同じようなポジションになる。枠順次第ではスタートからゴールまで馬体を併せて競り合う展開になることも十分に考えられるだろう。

　現在、香港マイルは香港馬が９連勝中。日本馬は１０年前のハットトリック以来、そのタイトルを手にしていない。モーリスとすればアウェーでの厳しい戦いとなるが、競馬ファンにとっては何とも楽しみな歴史的一戦になることは間違いないだろう。

(text by Kazuhiro Kuramoto)