高橋大輔、人々の心を打った流血の演技 写真で切り取るフィギュアの記憶(3)

スポーツナビ
 選手の数だけそれぞれの物語がある。笑顔、涙、怒り……こうした表情とともにこれまで多くの名場面が生まれてきた。後世まで脳裏に刻んでおきたいフィギュアスケートの記憶を写真で切り取る。

「高橋大輔 全日本選手権男子FS(2013年)」

【坂本清】

 全身が身震いするような感覚に襲われた。高橋大輔の演技を見ていたときのことだ。彼の右手からは血が流れていた。それでも、ビートルズ・メドレーの旋律に乗って、必死に演技を続けていく。赤く染まった手が、図らずも曲と同化し、見る者を自身の世界に引き込んでいった。

「これが最後になるかもしれないですし、最後になってもいいという気持ちで感謝を込めて、演じました」

 ケガをおしての出場だった。ソチ五輪への切符が懸かっていなければ、無理はしなかっただろう。その影響もあり、演技にはやはり精彩がなかった。SP、FS共に挑戦した4回転はいずれも失敗した。五輪に行けなれば引退。そう決めていた。

「終わった瞬間に『五輪はもうないんだろうな』と。僕のスケート人生で一番苦しかった全日本だと思います。その厳しい壁を乗り越えられなかった自分自身に対して腹が立つし、悔しいです」

 涙目でそう語る姿から、彼がいかにこの試合に懸けていたかを知った。結果は5位。ただ、流血の演技は間違いなく人々の心を打った。そして翌日、彼は五輪の切符も手にしたのだった。

(文:大橋護良/スポーツナビ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント