大天使ガブちゃんの仇を、イラプト。 「競馬巴投げ!第110回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

特に印象に残っている芦毛アンジュガブリエル

[写真3]ミッキークイーンまでが関西3強、これは桜花賞週の撮影 【写真:乗峯栄一】

 別にここで、××の証人について話そうとしているのではない。ただ、ぼくはJCといえば、とにかく、何が何でも外国の馬を本命にしてきた。

 92年クエストフォーフェイム。93年ミシル。94年アップルツリー。95年デーンウィン。96年アワッド。97年アスタラバド。98年ウンガロ。99年ハイライズ。00年エラアシーナ。01年キャグニー。02年サラファン。03年アンジュガブリエル。04年パワーズコート。05年ベタートークナウ。

 これがスポニチ(関西版)予想コラムでのJC予想遍歴である。とにかくJCは外国馬に勝って欲しいと思ってきた。予想コラムを始める前から外国馬ばかり買っていたから、おそらく20年は外国馬本命できた。

「日本馬勝った、エーイ!」の時代ではない。本格的国際競走を目指しているJC自体の危機なのだ。JCでは外国馬が勝ち、欧米ビッグレースでは日本馬が勝つという、そういう時代にならなければおかしい。でも、わが狙いの若干人気薄の外国馬は見るも無残に負け、秋天皇賞、有馬記念と同じようなレースが繰り返される。とても残念に思っている。あのメアジードーツや、スタネーラや、イヤというほど強かった外国馬たちはどこへ行ったのだ。(とは言いつつ、わが信念もついに折れて、06年からは日本馬を買い出してしまったが)

 で、上記14頭の予想コラム本命馬の中、特に印象に残っているのが芦毛アンジュガブリエルだったということが書きたかったのだ(JCでは7着惨敗だったが)。

 当時出演していたグリーンチャンネル番組では「歓迎!ガブ様御一行」と書かれた紙タスキを掛けて出たし、かなり入れ込んだ。しかし、特に馬名を気にする者として、この名前はとんでもないということが、あとになって分かった。

 新約聖書のイエス誕生に関して、最大の謎はマリアに受胎告知をする「大天使ガブリエル」という人物だ。この大天使ガブリエルをフランス語でアンジュガブリエルというのだ。日本でいえば「聖徳太子」みたいなもんだろうか。もし「ショウトクタイシ」という馬が走っていたら「くっそー、ショウトクタイシ、また出遅れやがって」とは言いにくいだろうなあ。

あんたの婚約者、すでに妊娠してるで

[写真4]忘れたころにやってくるヒットザターゲット、そろそろ一発? 【写真:乗峯栄一】

 新約聖書というのは27巻に分かれるが、イエスの生涯を描いたものを「福音書」と言って特に大事にする。福音書には4種類あるが「ヨハネ伝」だけは発言中心に書かれているので別に置いて、「マルコ伝」「マタイ伝」「ルカ伝」を特に「共観福音書」と呼ぶ。

 共観福音書は全部イエスの生涯を書いているのだから、似たものになるはずなのだが、細かいところで様々な相違がある。アンジュガブリエル(大天使ガブリエル)という言葉が出てくるのは、ルカ伝だけだ。

 アンジュガブリエル、正体もよく分からない。

 ルカ伝ではマリアに向かって「お前は既に妊娠している」と「北斗の拳」のケンシロウのように宣言する役目だ。「お前は処女だが妊娠している。世の中には往々にしてそういうことはある」と説得するのだが、その説得者が男なのか女なのか、天井から上から目線で言うのか、ひざまずいてウヤウヤしく言うのか、聖書にはそういう表記は一切ないから「天使だから羽は生えてるだろう」と、一致するのはそれぐらいで、古来、フラ・アンジェリコ、ダヴィンチ、ラファエロから、大原美術館のエル・グレコまで、様々な画家が様々に「ガブリエル」を描いてきたが、全部姿が違う。

 実はマタイ伝にも、ガブリエルの名前こそないが“受胎告知”の場面はあって、マタイ伝では父親大工のヨセフの方に「あんたの婚約者、すでに妊娠してるで。あんた、ヤッてないのになあ。辛いなあ。ま、世の中、そういうこと往々にしてあるんや。耐えなアカンで」とほとんど関西弁で説得する。

「あんたは処女だけど、既に妊娠してるで」と処女本人が聞くのがいいのか、「あんたの婚約者、妊娠してるで。父親はあんたじゃないけど」と婚約者が聞くのがいいのか、ルカ伝とマタイ伝はそれを問いかけている。

 たぶん聖徳太子はそんなことはしていないと思うが、アンジュガブリエルはやっている。ここにキリスト教の厳しさというか、リアルさというか、そういうのが凝縮されている。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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