ラグビー日本代表、新HCの条件は? エディー氏は「敵」として日本大会へ

斉藤健仁

日本代表HC候補は5人程度に絞られる

2019年のW杯日本大会で好成績を残すことはできるのか? 【写真:アフロ】

 一方、2019年に自国開催のワールドカップを控える日本代表の監督の後任人事については どうなるのか。60人ほど候補者が、現在は5人ほどに絞られているという。

 2011年、12月末、日本ラグビー協会がジョーンズ氏をヘッドコーチに選出したとき、下記のような基準があった。

・日本を世界レベルに引き上げるかつ日本らしいラグビーができる指導者

・2015年&2019年ワールドカップに向けて戦略的ビジョンを持っているか

・世界レベルのコーチングスキルを持っているか

・国際的ネットワークを持っているか

・一貫体制に協力できるか

・日本人コーチを育成できるか

・多くの課題に向かって目標を達成する情熱を持っているか

 上記の条件は、2019年のワールドカップを迎える日本代表の指揮官にも当然当てはまる。あえて付け加えるなら、「2015年のエディー・ジャパンの『勝つ文化』を引き継ぎながら、2019年ワールドカップ以降の日本代表にもつなげることができる指導ができる人材」ということになるだろうか。

2020年以降も見据えた選択を

 後任候補を選んでいる一人であり、ジョーンズHCとともに戦ってきた岩淵健輔GM(ゼネラルマネージャー)兼日本協会理事は、拙著「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡――」でこう語っている。「我々としても2019年に結果を出すことは、当然、大きな仕事の一つですが、その先2020年、2021年にどうなっているか。実はそちらの方が重要だと思って私はやってきました。ここで、その先に続く道を作っておかないと、2019年が終わってから急にはじめるのは無理なことです」

 つまり、今、五郎丸歩(ヤマハ発動機)の「ルーティーン」を見て、ラグビーを始めた子どもたちに、しっかりとした道筋を示さないといけない。そのためにも、2019年の日本開催のワールドカップを率いる指揮官が、結果を残すことはもちろん、どんなラグビーを見せるのか、どんな選手を選考するのかは、その先にも大きく影響してくることは間違いない。

日本人指導者が就任する可能性は?

 今後は、日本選手たちを長く拘束することも難しくなり、サッカー代表のように、選手たちの中には海外から帰国して、数日で代表チームにフィットすることが要求されるようになるかもしれない。イングランドやニュージーランドといった強豪とは違い、完全なプロリーグのない日本人指導者の中に、なかなか世界を知る監督はいないのが現状だ。そうなると、後任のヘッドコーチないし監督は、やはり、かつてのジョーンズ氏のように、トップリーグを率いた経験のある「世界も日本も知る」指揮官が適していると言わざるを得ない。

 もし、日本人指導者が監督になるのであれば、世界に精通したコーチやスタッフの入閣は絶対条件となってくるだろう(たとえば、今年のトップリーグの東芝は冨岡鉄平監督の下に、南アフリカの最優秀コーチ賞に輝いたことのあるジェームス・ストーンハウス氏がアシスタントコーチとして控えている。トヨタ自動車も今年度から菅原大志監督だけでなく、FWコーチにはワールドカップで優勝経験のあるピーター・オス・デュラント、BKコーチには元オーストラリア代表のコーチだったニック・スクリブナーが就任した)。

ディーンズ氏、ペニー氏は条件を満たしているが…

ディーンズ氏はスーパーラグビーで5度の優勝を経験し、昨季はパナソニックをトップリーグ優勝に導いた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 しかも、日本代表に準じるチームが、来年の2月から「サンウルブズ」として、スーパーラグビーに参入することも決まっている。このスーパーラグビーでの経験を、日本代表チームに還元できるような指揮官でなければならない。日本ラグビー協会・専務理事の坂本典幸氏も「いろいろな考え方があるが、日本代表の監督とスーパーラグビーチーム(サンウルブズ)のヘッドコーチは兼務が望ましい」という見解を以前、述べていた。それは至極当然のことだ。

 そう考えると、ワールドカップもスーパーラグビー(しかも最多を誇る優勝5回!)も経験しているのは、パナソニックのロビー・ディーンズ監督しかいない。ほかにはスーパーラグビーの指揮官の経験があるのはサントリーのアンディ・フレンドHC、リコーのダミアン・ヒルHCがいる。

 またNTTコミュニケーションズのロブ・ペニーHCは、スーパーラグビー経験こそないが、U20ニュージーランド代表を世界一に導き、NZ国内選手権でカンタベリーを率いて4度の優勝、アイルランドのマンスター時代は「プロ12」で最優秀コーチ賞を受賞した名指導者である。しかも、今年はスポットコーチとして、U20日本代表のトップ10残留にも大きく貢献した。2015年、ワールドカップで優勝したニュージーランド代表の半数は、ペニーHCの薫陶を受けている選手だった。

 いずれにせよ、2011年にジョーンズ氏が就任した時のように、年内には体制が判明することになろう。スーパーラグビーというプロリーグ参戦も控えるため、トップリーグだけでなく世界の経験を踏む舞台、強化する機会が用意されていることは、4年前とは大きな違いと言えよう。ただ、「日本と世界を知る」という軸だけはぶれずに、次期監督やヘッドコーチもしくは、コーチ陣を選出してもらいたい。そして、一ラグビーファンとしては、2019年のワールドカップで、ジョーンズHCが率いるイングランド代表と日本代表が対戦する姿を見てみたい。願わくば、準々決勝で……。

【書籍紹介】

「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」 【ベースボールマガジン社】

「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」斉藤健仁著
ベースボール・マガジン社
定価1,400円+税

 世界中を驚かせた大金星は偶然ではなかった。ワールドカップの大舞台で、24年ぶりの大金星を挙げたラグビー日本代表。南アフリカ戦の最後のプレーで、同点ゴールを狙わずに、逆転トライを狙いにいった判断は、なぜ生まれたのか。そこには、4年間に渡り、エディー・ジョーンズヘッドコーチの下で、世界ベスト8入りを狙い、厳しい練習を重ね、自分たちを信じ続けた選手たちの想いがあった。エディー・ジャパンの全57試合を取材したスポーツライター・斉藤健仁氏が、その舞台裏に迫る!

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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