オランダが「ロッベン・システム」へ回帰 ウェールズ戦で見せた現実的な戦い方

中田徹

消えた「賢くサッカーをする」という長所

守備的な布陣で戦うも、セットプレーから簡単に失点を喫するなど課題も多い 【写真:ロイター/アフロ】

 ロッベンもスナイデルも31歳というベテランだが、今のオランダ代表の中でこの2人の実力はずば抜けている。また、若い選手たちのメンターとしても重要な存在であり、新生オランダ代表でも欠かせぬ存在になりそうだ。

 ただし、ガレス・ベイルもアーロン・ラムジーもいないウェールズに2失点を喫したのはいただけない。流れの中ではそれほど崩されなかったオランダ守備陣だったが、セットプレーでの集中力に欠けた。前半アディショナルタイムの失点はCKからハンドでPKを与え、そのPKをGKヤスパー・シレッセンがストップしたものの、リバウンドを蹴り込まれてしまった。「PKだから、失点は仕方ないではないか」という声も出そうだが、リバウンドに対してウェールズがしっかり詰めたのにオランダの選手は傍観者になっていた。

 後半、2−2とされた時の失点は、ウェールズのショートコーナーに気づかず、オランダの選手たちがボールに背を向けている内にリスタートされ、まったく守備組織ができておらずに失点したもの。とてもサッカー大国の姿ではなかった。せっかく5バックにして自陣ゴール前を閉めても、セットプレーで崩壊してしまったら意味がない。近年のオランダ代表は「賢くサッカーをする」という彼らの長所が消えてなくなってしまったような気がする。

 ともあれ、試合内容を振り返ればオランダ代表の順当勝ちである。これまでのオランダ人だったら、代表チームが伝家の宝刀とも呼べる4−3−3を捨てて戦ったらヒステリックに監督を責めたてる人も出てきたろうが、今回のユーロ予選敗退と負け方の酷さにかなり堪えたせいか、「5−3−2で守備にアクセントを置いて戦うのは、今のオランダ代表にとって現実的」と見る声が多い。しかし、これも「ロッベンがいなければ機能しないだろう」とガラスの足を持つエースのコンディションを気にするメディアもいる。また、「試合途中に5−3−2から4−3−3にスイッチするのは、W杯でも見られたようにオランダ代表にとって簡単」という意見には、久しく忘れていたオランダ人のビッグマウスの匂いがして少しうれしかった。

試したかった「ロッベン抜きの5−3−2」

ストライカーの層が薄いオランダ。ロカディアら新戦力も試しておきたかった 【写真:ロイター/アフロ】

 11月17日に予定されていたドイツ戦、3月のフランス戦、イングランド戦、そして9カ月後に迎えるW杯予選の初戦スウェーデン戦、3戦目のフランス戦と、強豪相手の試合が続くこともあって、今回のウェールズ戦は5−3−2の慣らしとして非常に良かったのではないか。しかし、残念ながらドイツ戦はテロの可能性があったことから、キックオフを1時間半前に控えて中止になってしまった。バイエルン・ミュンヘンとの約束もあってロッベンは既に合宿所を去り、ドイツ戦では「ロッベン抜きの5−3−2」というテストの場でもあった。

「オランダ代表の5−3−2はロッベン・システムである」と書いておいて矛盾しているようだが、ユーロ予選のほとんどをロッベンは負傷で欠場しており、W杯予選でもそのケースは予想される。だが、爆弾を仕込まれたという噂がある以上、試合開催どころではない。「テロにサッカーが負けた」という声もあったが、ドイツ当局の決断は正しかったと思う。

 個人的に一つ惜しんでいるのはウェールズ戦後、急きょ招集されたFWユルゲン・ロカディアを試す機会を失ったこと。3トップを採用するPSVではルーク・デ・ヨングというストライカーの存在が絶対的なため、ロカディアは左サイドで起用されることが多いが、2トップシステムを採用するオランダ代表なら本来のポジションで力を発揮できるのではないかと期待していた。ウェールズ戦では先制ゴールを決めるなどバス・ドストが頑張ったが、今のオランダ代表はストライカーの層が薄い。途中出場でもいいから、ロカディアとクラース・ヤン・フンテラールの2トップを見てみたかったと思う。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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