PSGに足りない、小さくて大きな半歩 レアル・マドリー戦で見せた2つの顔

木村かや子

CLでレアル・マドリーに0−1で敗れたPSGには何が足りないのか 【写真:ロイター/アフロ】

 パリ・サンジェルマン(PSG)は、もはや単なるダークホースではない。しかし、あと半歩が足りない。チャンピオンズリーグ(CL)グループ予選における、PSG対レアル・マドリーの2試合(第3節と第4節)は、それぞれ違った意味で、パリにとってフラストレーションのたまるものだった。

 0−0の引き分けで終わったホームでの第一戦後には、本来の力を出せばより優勢に戦えたはずなのに、慎重になり過ぎ、それができなかったというフラストレーション。そして第二戦では、相手より良いプレーをしながら、数多くあった得点機を決めきれず、ひとつのミスのせいで敗れたいら立ち。しかし、PSG監督ローラン・ブランが、「このような試合ができたのなら、たとえ望む結果を得られなかったとしても、ポジティブなものを見いだすべきだ」と言った通り、敗れた二戦目の方がより明日につながるそれだった。

 0−1で敗れた二戦目の後、ブランはこう言っている。

「一戦目のあと、われわれはリズムを高め、レアルと張り合うことができなかったと非難する者もいた。しかし意欲を持ち、組織的にしっかりとプレーできたときのわれわれは、どんなチームをも脅かし得る」

PSGが進化を続けていると信じる理由

ディ・マリアの加入などから、PSGは昨季よりも強くなったと期待を集めていた 【写真:ロイター/アフロ】

 PSGが、ホームでレアル・マドリーに引き分けたとき、パリ側に立ち込めた後味は、安堵(あんど)より失望に近かった。実際、対戦前のフランスには、(主力数人を欠いた)このレアル・マドリー相手なら勝てるのでは、という期待が色濃くあったのだ。それは、今季のPSGが、昨年よりも強くなったと信じられていたからでもある。

 それにはいくつかの根拠がある。第一に昨年、起用法への不満を口にし、出来に関してもトップとはいえなかったエディンソン・カバーニが、シーズン出だしから好調ぶりを見せていたこと。運動量が幾分落ちたと言われるズラタン・イブラヒモビッチに関しても、攻撃での存在感は健在だった。イブラヒモビッチのシュートが弾かれたところを、他の選手が押し込むというパターンも少なくない。何より今季には、イブラヒモビッチかカバーニがおとりになる、陽動作戦的な動きも多く出ており、攻撃は前季よりうまく機能しているように見えていたのである。

 昨季には控えだったセルジュ・オーリエの急成長ぶりも、プラス要素のひとつだ。またここ1〜2年に獲られたメンバーたちがよりなじんだおかげで、チームの全体的な相互理解も向上していた。

 そして第二に、PSGの弱点と言われていたアウトサイドに、アンヘル・ディ・マリアという新戦力が加わった。3年前にポテンシャルを期待されて獲得した右ウイングのルーカス・モウラは、そのビジョンのなさゆえ、もはや成長を見限られたところがある。ドリブル突破まではいいが、レベルの高い相手にそのまま自分で決められるわけでもなく、良いタイミングでパスするわけでもない。反対にディ・マリアはより狡猾であり、ソリスト(独奏者)的なプレーをすることもあるものの、仲間の動きに応じてプレーすることのできる選手だ。

 実際、すでに3得点3アシストと、新リーグ、新クラブでのスタートにしては、なかなかの結果も出していた。大舞台に慣れた、相手にとって嫌な動きのできるディ・マリアは、間違いなくビジョンがゼロのルーカスよりは上というのが、このシーズン前半の印象だったのである。

臆病風の吹いた第一戦

第一戦はレアル・マドリーの素早い寄せに対応できず、課題が浮き彫りになった 【Getty Images】

 しかし、第一戦では、リーグ・アンでは見えなかった、ディ・マリアと他の仲間の意思疎通の不十分さが、レアルの素早く的確な寄せを前に浮き彫りになる。

 この第一戦に際し、PSGファンが思い描いた理想の展開は、カウンター狙いで守備的にくるであろうレアルに対し、2年前の対バルセロナ戦で見せたような勇敢さで、攻撃的にこちらから押していくというものだった。ところが、10月21日の試合では、その果敢さを致命的に欠いていた。

 パスミスの多かったブレーズ・マテュイディ、オーリエら数人の選手はうろたえ、慌てているように見えた。よく言う『名前負け』ということではない。相手がベストメンバーでなかったということもあり、やる気満々で乗り込んでいったところ、想像以上に激しくスピーディーなレアルの中盤のプレスに遭遇し、相手の強さを肌で感じてびびり出したとでもいった風だったのだ。

 実際、第一戦でのレアルの寄せの速さとポジショニングの良さは、PSGの苦難の元凶だった。DF陣はもとより、イスコやルーカス・バスケスのような攻撃的中盤までが率先して中央に寄って第一のプレスを仕掛け、そこを凌いでも、ボランチのトニ・クロースとカゼミーロの寄せが来る。おかげでパスを出すにも受けるにも、時間的余裕やスペースがほとんどなく、そのせいでPSG側にパスミスが多発した。

 足元が極めて器用なチアゴ・シウバ、チアゴ・モッタ、マルコ・ベラッティ辺りまでのパスはスムーズにいったが、そもそもカバーニらPSGの攻撃陣は、トラップが飛びぬけて巧いというわけではない。リーグ・アンなら足に吸い付くようなトラップができなくても、そこまで素早いプレッシングがないので問題はないのだが、レアルクラスの相手には、軽く前にこぼしただけでボールを奪われることになる。

 そして前衛がボールを奪われ過ぎたがために、通常なら一団となってラインを上げる中盤以下も、カウンターを恐れて引き気味になり、その結果、PSGの全体的なプレーの姿勢が、必然的に臆病なものになった。良いときのPSGは、チャンスと見れば中盤が前線に躍り込み、攻撃の脅威が二重、三重になる。しかし、前線にパスが通ってから奪われる頻度が高いため、中盤、後衛は共にラインを上げて背後にスペースを作る危険を冒せず、やや前衛が孤立することに。ちなみに、統計によれば、前述の試合で最も頻繁にボールを奪われたのは、イブラヒモビッチだった。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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