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男子プログラムはどこまで進化する?
五輪王者・羽生らトップ選手の場合

 2004−05シーズンから正式に導入された現行のISU(国際スケート連盟)ジャッジングシステムは今季で12年目を迎える。かつての6点満点の旧採点方式から、技術点と演技構成点(PCS)の採点と減点(あった場合)の合計点によって勝敗が決まる方式へ移行し、この新採点方式下ですでに3度の五輪が競われた。また、毎五輪後には大きなルール改正が行われている。


 得点は青天井とも言われ、選手はGOE(出来栄え点)の加点や、基礎点が1.1倍になるプログラム後半のジャンプの特典を狙うなどの戦略をもって、プログラム(ジャンプ)構成を組み立てるようになっている。12−13シーズンからは、FS(フリースケーティング)だけでなく、SP(ショートプログラム)でも後半のジャンプの基礎点が1.1倍になった。

今回、お話をうかがった国際審判員の岡部由起子さん
今回、お話をうかがった国際審判員の岡部由起子さん【スポーツナビ】

 今回は男子のプログラムがどこまで進化するのかを、テクニカル・コントローラー、レフェリー・ジャッジとして活躍する国際審判員の岡部由起子さんにお話を聞きながら探ってみた。

ジャッジは最高得点を気にしていない

 まずは、得点にスポットを当てながら、ジャンプ構成の変遷を見ていきたい。06年トリノ五輪を制したエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が当時記録した世界最高点は、合計点が250点台、SPが90点台、FSが160点台だった。それが現在では、パトリック・チャン(カナダ)が13年のGPシリーズ・フランス大会で出した合計点295.27点とFSが196.75点が世界最高点。それぞれ300点、200点に迫る勢いだ。

06年トリノ五輪で金メダルに輝いたプルシェンコが当時記録した世界最高点は、合計点が250点台だった
06年トリノ五輪で金メダルに輝いたプルシェンコが当時記録した世界最高点は、合計点が250点台だった【Getty Images】

 SPでは、日本のエースである羽生結弦(ANA)がすでに100点超えとなる101.45点を、金メダルを獲得した14年ソチ五輪でマークした。ちなみに、SP以外の羽生の自己ベストは、13−14シーズンのGPファイナルで出した合計点が293.25点、FSは14−15シーズンのGPファイナルでマークした194.08点となっている。


 さて、今季は果たしてどこまで世界最高点が更新されるのか。ひとつの見どころになるかもしれないと、ジャッジの立場から得点についてお聞きしたところ、岡部さんから意外な回答が返ってきた。


「技術点の基礎値はテクニカルパネルが、GOEとPCSはジャッジが、それぞれ別に点をつけていますので、ジャッジ自身は得点がどれだけ上がるかは予想がつきません。それに、ジャッジは最高得点が出たかどうかはまったく気にしていないです。われわれはいいパフォーマンスには良い点数を出したいというスケートが大好きな人種ですので、PCSの各項目でも機会があれば10点満点を出したいし、GOEでも最高の3点を出したいと思っているのです」

男子は4回転の種類を複数入れないと勝てない

 得点はあくまでも演技がどう評価されたかによって、後からついてくるものにすぎない。一方で、高得点をマークしたからといって、最高の演技だったかどうかは測れないこともある。だから、得点というよりは、演技内容で男子のプログラムがどう進化しているのかを見ていくことが大事なのだ。ここでは具体例として、トリノ五輪のプルシェンコとソチ五輪の羽生のSPでのジャンプ構成の比較をしてみることにしよう。


 プルシェンコは4回転トウループ+トリプルトウループ、トリプルアクセル、トリプルルッツの3つのジャンプを前半にまとめて跳び、GOE加点を含めてジャンプだけの合計得点は30.65点だった。一方の羽生は冒頭に4回転トウループを跳び、基礎点が1.1倍になるプログラム後半にトリプルアクセルとトリプルルッツ+トリプルトウループの攻めの構成を成功させて、同じくジャンプのみの合計点で37.26点の高得点をマークしている。

ソチ五輪での羽生はSPのジャンプのみの合計点で37.26点の高得点をマーク
ソチ五輪での羽生はSPのジャンプのみの合計点で37.26点の高得点をマーク【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ただし、この2つの合計点は一概に比較はできない。なぜならば、ジャンプの基礎点が06年と比べると14年の時はルール変更によって1点前後の配点増があるからだ。それでも、ジャンプ構成を見れば、明らかに高得点を狙うためにプログラムの進化が図られていると言ってもいいだろう。


 複数種類の4回転を組み込んだり、SPでもFSでも後半に4回転を含めた複数回のジャンプを跳んだり、FSでは3回以上の4回転を入れてきたりと、体力的にも精神的にもハードなジャンプ構成を組み立てるのは、メダル争いを展開するトップ選手では当たり前になってきた。


「ソチ五輪を経て、これからの男子は4回転の種類を複数入れないと勝てなくなってきたというのが一番大きな変化だと思います。複数回も2回ではなく、3回、4回入れる選手もいるのが現状で、シニアはもちろん、ジュニアでさえ4回転を2度跳んできています。先日のジュニアグランプリシリーズ米国大会では成功はしませんでしたが、FSで4回転を3度挑戦して2度成功させた選手がいました。シニアのトップ選手は、当たり前のように2度以上成功させることが勝つ鍵になっていると感じます。ただし、ジャンプだけでは勝てず、演技の完成度が高い選手でなければ勝負を制することはできない時代に入ってきましたね」

岡部さんによれば、トップ選手には技術力と演技力の両面がしっかりと備わっているという
岡部さんによれば、トップ選手には技術力と演技力の両面がしっかりと備わっているという【写真:ロイター/アフロ】

 岡部さんがこう指摘するように、直近の五輪や世界選手権でメダル争いに加わった羽生をはじめ、休養から今シーズン復帰するチャン、現世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)、四大陸王者のデニス・テン(カザフスタン)、ジャンプに定評があるハン・ヤン(中国)、個性豊かな表現力が武器のジェイソン・ブラウン(米国)らトップ選手には、技術力と演技力の両面がしっかりと備わっているという。

辛仁夏

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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