センバツ絶望も清宮幸太郎は軽快 課題克服の先に見据えるは「東京五輪」
東京五輪をイメージしている高校1年生
秋季都大会2回戦で敗退し、取材に応じる清宮。冬を越え、来春にはどのようなプレーを見せてくれるだろうか 【写真は共同】
「東京五輪の追加種目の候補として野球が決まりましたが、いかがでしたか?」
10月10日、都立小平高との秋季東京都本大会1回戦に辛くも勝利した試合後、いつものように報道陣に取り囲まれた早稲田実業・清宮幸太郎は、こんな質問を受けた。
高校1年生に5年後の五輪について聞くことなど、本来ならジョークでしかないだろう。しかし、そんな質問を成立させてしまうところに、清宮の異能ぶりがあらためて浮き彫りになったような気がした。
そしてもっと驚いたのは、その質問に清宮がサラッと返答したことだ。
「自分ももしかしたら選ばれるかもしれない年齢なので、ワクワクというか、絶対に入ってやるんだという思いです。まだ先のことで、自分はまだまだ高校野球があるんですけど。U−18代表にも入れさせてもらって、いい結果が残せなかったので、今度は入れるなら入って、しっかり結果を残したい。また日の丸を背負ってプレーできたらいいなと思います」
高校1年生の秋。ごく普通の高校生が「文化祭で彼女ができるかな?」などと胸をときめかせている頃に、清宮は五輪という舞台に敬意を払いつつ、その場に自分が立つことを現実味のあるイメージとして抱いている。恐らく今までの高校球界に、そんな16歳はいなかっただろう。
独特なムードを作った清宮の存在
2回戦で当たってしまったことが惜しまれる好カードだった二松学舎大付高戦、延長10回の激戦の末、1対2でサヨナラ負けを喫した。
しかし、戦いの印象としては「早実の大健闘」というものだった。今夏の甲子園でベスト4に進出したとはいえ、個々の力は二松学舎大付高が上回っていたように見えたからだ。エース左腕の大江竜聖、強肩捕手の今村大輝、クセ者の三口英斗は1年夏から2度の甲子園を経験しているし、3番・市川睦、4番・永井敦士の1年生コンビは将来性豊か。そんな今秋の都大会優勝候補筆頭を1年生エースの服部雅生が8回まで0点に抑え、勝利まであと一歩に迫った早実の戦いぶりは見事だった。
「相手のピッチャーもいいピッチャーなので、こういう展開は予想がついていました。最後の最後で勝ちきれないのはまだ練習が足りないのだと思います。ここぞ、というチャンスで点を積み重ねて、余裕をもって試合を運びたかった」(清宮)
思えば今夏の西東京大会にしても、早実は日大三高や東海大菅生高という、実力的には格上のチームを撃破してきた。スタンドの独特なムードに相手を巻き込み、試合巧者の選手たちが躍動する。そのムードの醸成に最も貢献していたのが、清宮だったことは間違いない。
早実の「無形の力」は相手の脅威に
それでも、東京ナンバー1投手・大江もまた、独特の存在感で自分の世界を披露してみせた。捕手のミットに収まるまでまったく垂れないストレートで、面白いように見逃し三振を奪った。3回までを打者9人で抑え、6奪三振。そのうち5つが見逃し三振だった。試合後に早実の和泉実監督は「見送り三振はしてもいいから、自分のタイミングで待てるように」と指示していたことを明かしたが、ゲームの序盤を制したのは間違いなく大江だった。清宮は大江の印象をこう語った。
「やる前はストレートとスライダーの印象が強かったんですけど、対戦してみたら『タイミングが取りにくいな』と感じました。テンポがいいということではなく、足を上げてからの動きというか……」
二松学舎大付高バッテリーも清宮を特に警戒していた。捕手の今村は言う。
「とにかくホームランだけは打たれないようにして、シングルヒットならOK。インコースが一番好きなコースということはわかっていたので、そこには投げないようにしました。外の全部厳しいコースで勝負しようと」
消極的といえば、そう聞こえるかもしれない。だが、清宮にホームランを打たれるということは、たとえソロホームランだとしても、「ただの1点」ではないということを今村は知っていた。一発勝負のトーナメントで勝つためには、清宮にホームランを打たれることだけは避けなければならなかった。