男子バスケ代表が18年ぶりのアジア4強 五輪世界最終予選に向け高めたい経験値

小永吉陽子

組織力(2):竹内のリバウンドと機能した守備

大会を通じてリバウンドと得点で貢献した竹内 【小永吉陽子】

 フィジカルの競り合いに弱い日本の課題は今も昔もリバウンドであるが、今大会健闘できた要因は、そのリバウンドで勝負できたことに尽きる。リバウンドは一試合平均40.3本で、16チーム中8位と食らいついた。日本のリバウンドの柱となった竹内は平均32.6分出場し、平均11.9本で2位。「今年は(双子の兄の公輔がけがをして)インサイドが弱いので自分がやらなければ」という本人の自覚が一番の要因にあげられるが、リバウンドを取りやすいディフェンスシフトを敷いていたことも見逃せない。

「バスケットは謎解き」だと語る佐々宜央コーチは佐藤賢次コーチと協力し合い、7月末の海外遠征時から、リバウンドを取りやすい守り方は何か――を追求してきた。今回、リバウンドが取れた謎解きを簡単に言えば、ディフェンスにおいてはシュートを守るというよりは終わり方を強調し、ボックスアウト(※1)しやすいポジショニングにいたことが功を奏した。例えば、相手がピック&ロール(※2)をしてきた際にはショウディフェンス(※3)をすることが多いが、無理に前に出て行かずに、ボックスアウトしやすい位置に竹内を配置することで、次のオフェンスへの連動性を求めてきた。それも何度も試さなければできなかったことで、竹内自身も「海外遠征を通してつかんできた」と語る。

 またディフェンスにおいては、チェンジング(※4)として織り交ぜたドロップゾーン(※5)が効いた。パレスチナ戦では主力3選手の守りどころを徹底し、カタール戦ではエースガードが起点となるピック&ロールに対して、ガード陣がうまく処理して相手に攻めどころを作らせなかった。ガードがディフェンスでトラブルを起こさずにボックスアウトができたことも、竹内がリバウンドに跳びやすくなった要因である。

※1:リバウンド好位置を保つためのプレー
※2:ボール保持者をマークするディフェンダーに対しスクリーンを仕掛け、ボール保持者の移動を自由にし、さらにスクリーナーが方向転換して自らフリースペースでパスを受けるプレー
※3:ボール保持者のディフェンスに、スクリーンがセットされた場合に、スクリーナーに対峙していた選手がボール保持者に対して自分の姿を見せるようにして、スクリーナーが行かせようとしているコースを防ぐプレー
※4:一定の約束事に従って状況ごとにディフェンス方法を変えること
※5:豊富な運動量とコンビネーションで行う攻撃的な守備戦術の一つ

組織力(3):スカウティングの勝利

 勝負所でのリバウンドや、準々決勝のカタール戦で起点となるエースガードを封じたことは、分析スタッフによる綿密なスカウティングの勝利と言えるだろう。特にカタール戦では、休養日に丸一日かけて相手の抑えどころを練習できたことが効いていた。

 これらを分析したテクニカルスタッフの末広朋也は、2011年度よりアンダーカテゴリーからA代表まで、相手の戦力分析を資料と映像の両面から作り上げることで貢献してきた。分析資料の数々は、コーチ陣が戦術を練り上げるために利用し、それらを採用するかどうかを最終的に決めてアレンジするのは長谷川HCの役目だ。

 ベスト4を決めたとき、選手の口からは自然とスタッフ陣への感謝の言葉が出ていた。熱を生み出すための労力を費やしたのは選手たちだけではなかった。だからこそ、チーム一丸となって戦えたのだ。

大事な場面で決め切ることが課題

 だが、チームが一丸になっても足りないことだらけだと気づかされたのはベスト4以上の戦いである。日本のスカウティングに対し、さらなる対応力を持っていたのが、二度に渡って敗れたイランやフィリピンだった。第4クォーターの終盤になるとスタミナ切れから脚も思考力も止まった日本に対し、イランやフィリピンの選手は必ずチームの柱が得点を決め、対応力の高さを証明していた。

 割れんばかりの声援がこだまする中国とフィリピンの決勝戦(78−67で中国が優勝)を観戦しながら、長谷川HCは、あらためて実感するかのように語った。

「中国やフィリピン、イランの選手たちは自国リーグや国際大会の大観衆の中でやってきた経験があるから、大事な場面で決めることができるのだと思う」

 18年間も4強から遠ざかっていた日本は大舞台で戦う経験が圧倒的に不足している。国内リーグでは外国人選手がフィニッシュを決めることが多い。普段やっていないことを急に国際大会で求めてもできるわけがない。今後は、今大会に成功したことを基盤として継続し、日常の強化が代表の強化へとつながるような国内リーグにすることが最大の課題である。国内リーグにおいて、「世界最終予選に出たい」と熱望する選手たちの競争が起こることを期待し、さらなる前進をしていきたい。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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