鶴竜は“自分の横綱相撲”を貫く決意 高まっている世間の綱のハードル
朝青龍、白鵬の独走に慣れてしまった世間
横綱昇進後の初優勝を果たし、今年結婚した夫人、長女と喜びを分かち合う鶴竜 【写真は共同】
ここ20年ばかりは優勝20回超の大横綱たちが、間を置かずに角界の頂点に君臨し続けている。相撲史を俯瞰(ふかん)してみれば、むしろ今が例外的な時代だということに気づかされる。朝青龍や白鵬の独走に慣らされてしまったわれわれは、いつしか横綱に求めるハードルを無意識のうちに高くしているのではないだろうか。
新横綱場所で9勝に終わった日馬富士に対し、当時の横審が引退勧告をチラつかせたのもいい例だ。すっかりヒールとなってしまった鶴竜が千秋楽の土俵上で、不本意ながら耳にすることになった“照ノ富士コール”も、昨今の例外的な現象によって形成された世論がその背景にあるような気がしてならない。
「自分の相撲人生を生きていく」
会見の最後に鶴竜は語気を強めて、キッパリとこう言い切った。
「1つ言えるのは、人に認められたくて相撲を取っているわけではない。自分は自分の相撲人生を生きていく」。
年6場所制となって横綱に昇進したのは初代若乃花から鶴竜まで27人いるが、そのうち優勝回数が10回に満たない横綱は、現役の日馬富士、鶴竜を含めて16人。大半の横綱は大横綱の脇で仇花のように散っていったが、おのおのの時代に放った一瞬の輝きはファンの記憶に永遠に刻まれている。鶴竜が白鵬になれないのは言わずもがな。いぶし銀のテクニックと時に飛び道具も辞さない第71代横綱は、今回の優勝を機になお一層、自分の相撲を貫く決意を強くしたに違いない。それが鶴竜にとっての横綱相撲なのだから。