天才は時に、エンジニアの毒にもなる 元フェラーリ浜島裕英が語るF1の世界

田口浩次
 かつてブリヂストンでF1総指揮を執り、2012年から14年までフェラーリで働いた日本屈指のエンジニア浜島裕英氏が、今シーズンここまでの戦いを振り返る。インタビュー第2弾は、王者ルイス・ハミルトンの強さ、注目の若手ドライバー、天才たちとの仕事、そして専門分野であるタイヤ問題について、語ってもらった。最前線で戦い続けてきたからこそのエピソード、言葉には重みがある。(取材日:9月17日)

ハミルトンは自信が走りに表れている

王者ハミルトンは浜島さんも認める強さ。走りには自信が表れているという 【Getty Images】

――今シーズン、注目のドライバーについて教えてください。まず、チャンピオンシップ争いでトップを走るルイス・ハミルトンはどう見ていますか?

 これは個人的な解釈ですが、ルイスの最初のチャンピオン獲得(08年)は、自分でもぎ取った王座ではなかったですよね。最終戦、雨のブラジルGPで、トヨタ(ティモ・グロック)の絡みもあって、10秒間はフェリペ・マッサが王者だったけれど、最終的に自分に転がり込んだチャンピオンでした。もちろんうれしかっただろうけれど、自身で取った、という気持ちはなかったと思います。

 それと比較すると、昨年のチャンピオンシップは、前半リードされて、途中追いついたけど、再び巻き返されて、最後の最後に自分の手でもぎ取って王者に輝きました。あれはすごく自信につながったと思いますよ。彼は今、自分に自信があって、仕事をしっかり構築すれば、最後は自分が取るという自信が走りに表れています。正直、今のルイスを打ち崩すことは難しいですよね。

――ポールポジションは13戦中11回獲得。これだけの圧倒的な強さは、ミハエル・シューマッハにもなかったですよね。

 なかったですね。しかも、ポールポジションで2位に0秒5の差をつけちゃう。すごいですよ。走りに関してはさえわたっていますね。FP(フリー走行)1やFP2でチームに注文をつけて、予選Q1、Q2を使ってさらにマシンを良くして、Q3でポールポジションを獲得しています。

トロロッソの若手2人はレベルが違う

トロロッソ注目の若手ドライバー。17歳のフェルスタッペン(左)とカルロス・サインツ・ジュニアは大きな可能性を秘めている 【Getty Images】

――他に気になるドライバーは?

 トロロッソの2人は注目ですね。いや、注目はチーム代表のフランツ・トストさんのドライバー選択眼かな。あの人はすごく見る目があるというか、過去の新人ドライバーはみんなが成功しています。それこそ、古いところから言えば、キミ・ライコネン、マッサ、フェルナンド・アロンソ、そしてセバスチャン・ベッテルもそう。すごいですよね。

 マックス・フェルスタッペン、カルロス・サインツ・ジュニアも今までの新人とはレベルが違います。あの2人は伸びますよ。そしてレッドブルです。ダニエル・リカルドはすでに実力が証明されていますが、そのチームメートのダニール・クビアトにも注目ですね。彼はロシアンマネーで乗ったドライバーじゃないと(笑)。彼もまだ21歳と若い。17歳(フェルスタッペン)がいるから、そう感じないかもしれないけど。ハンガリーGPが彼の速さの典型です。ずっと我慢して我慢して、最後に前に出て行った。やはり、力があるから表彰台に上ったのだと感じました。

――今季のフェラーリはメルセデスに次ぐ位置に来ました。2人とも速いのはマシンが良い証拠なのでしょうか?

 そうですね。しかも、ベッテルもライコネンもゲーム世代じゃない。感覚を重視するドライバーだから、結果的に2人が満足する方向性が一緒になりました。フェラーリの進捗はそこが大きかったです。これでベッテルのチームメートが昨年同様のアロンソだと、昨年の二の舞になる可能性がありました。ダメなマシンだとしても、乗れちゃうドライバーがいると、エンジニアはそっちに合わせ気味なんですね。マシンを大きく変えることをしなくなるんです。

モータースポーツ最高峰の舞台で長年戦い続けてきた浜島さん 【スポーツナビ】

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